【マルコフ連鎖】宅配便の販促キャンペーンにかけるコストはいくらか妥当か?
某国の宅配便市場は年間1億個の需要があり、3社で独占されています。
マーケット調査会社が、ある宅配便会社を利用した顧客が次にどの宅配便便会社を利用したかを調べたところ、次のような統計になりました。
宅配便会社A社は某広告会社から、
「有名俳優Kを使った販促キャンペーンを行いましょう。このキャンペーンにより上記の統計が下記のように変わることを1年間保証します。」
という年間価格2億円の販促キャンペーンの提案を受けています。
A社では貨物1個当たり、平均100円の利益があります。
A社はこの販促キャンペーンに年間2億円を支払う価値があるでしょうか?
現在の各社の市場シェアを求める
この国では顧客が宅配便会社を決める行動が、前回のサービス満足度に依存しているためマルコフ連鎖で近似することができます。
そして遷移確率行列は最初に出てきた表の通りで、次のようになります。
まずこの行列をn乗してnを大きくしていったら定常状態に収束するか、つまり不変分布が存在するかどうかをチェックしてみましょう。
マルコフ連鎖が不変分布に収束するための条件を図でわかりやすく解説
まず遷移状態図を描くと次のようになります。
マルコフ連鎖が不変分布を持つための条件は①連結か?、②再帰的か?、③非周期的か?の3つです。
①連結か?
A、B、Cとも他のすべての状態に矢印でつながっているため、すべての状態は連結しています。
②再帰的か?
ある状態から他の状態へ遷移して、そのまま戻ってこれないという状態は存在しないため、すべての状態は再帰的です。
③非周期的か?
すべての状態は直接自分に戻ってくるルート(例えば80%の確率でA⇒A)があるため、すべての状態の周期は2にはならずに1になります。そのためすべての状態は非周期的です。
このように3つの条件をすべて満たしているため、このマルコフ連鎖には不変分布が存在します。
そして不変分布は、
ΠP=Π
を解くことにより求めることができます。
この場合、状態はA社、B社、C社の3つなので、ベクトルΠは3つの成分
Π=[Π1 Π2 Π3]
で表せます。
従って、ΠP=Πは次のように①~③の連立方程式になります。
しかし、この3つの式で独立なのは2つだけです。
そのため1つの式を削って、代わりにΠ1+Π2+Π3=1の式を追加します。
ここでは式①を削るとすると、新たに次の連立方程式ができます。(式②と③は移項して右辺を定数にしています)
Π1+Π2+Π3=1
0.1Π1-0.3Π2+0.3Π3=0
0.1Π1+0.1Π2-0.5Π3=0
この連立方程式を地道に解いてもいいのですが、ここでは行列を使って解いてみましょう。
A-1はExcelのMINVSERSE関数で簡単に計算できます。
また、A-1bもExcelのMMULT関数で簡単に計算できます。
これで不変分布Πが求まりました。
Π1=0.5
Π2=0.33
Π3=0.17
です。
つまり、A社の市場シェアは50%、B社は33%、C社は17%です。
販促キャンペーン後の市場シェアを求める
販促キャンペーンによって遷移確率行列が変わりますが、同じようにして販促キャンペーン後の市場シェアも求めることができます。
ExcelでA-1bを計算すると、次のようになります。
よって、販促キャンペーン後はA社の市場シェアは60%、B社は24%、C社は16%になることが分かります。
増益額と販促キャンペーンコストを比較する
以上より、販促キャンペーンを行うことによってA社の市場シェアは50%から60%に10ポイントアップすることが分かりました。
この国の宅配便市場は年間1億個の需要があるため、A社の取り扱い個数は年間1千万個増加します。
貨物1個当たりの利益は100円ですので、年間10億円の増益が見込めます。
これに対して販促キャンペーンのコストは年間2億円ですので、A社はこの広告会社の提案に乗るべきという判断になります。