【マルコフ連鎖】翌日配送が翌々日配送になると在庫は何台必要か?

2023年10月7日

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某物流センターでは自動梱包機を2台レンタルしています。

この国では電源電圧が安定していないため、1日あたり25%の確率で故障します。

今までは、故障したら次の日の朝までにレンタル会社が代替機を届けてくれるため、朝の時点では常に2台が稼働できる状態にありました。

ところが、レンタル会社の経営者が代わり、代替機の手配は翌日配送から翌々日配送に方針変更になりました。

このままでは当然、朝の時点で常に2台揃えておくことはできないため、代替機を何台か物流センターに在庫しておく必要があります。

何台在庫しておけば安心でしょうか?

 

マルコフ連鎖に当てはめてみる

物流センターには2台の自動梱包機がありますが、毎日朝の時点で準備されている台数を状態とします。

すると、故障してもレンタル会社が翌日の朝までに代替機を配送してくれるのなら、状態は常に2台になります。

しかし、レンタル会社が翌々日配送に切り替えると、状態は0台、1台、2台の3通りになります。

 

またこの場合、今朝2台稼働していたら、それぞれが25%の確率で故障するので、その日のうちに1台壊れて明日の朝に1台しかなくなる確率は1/4です。

もっと運が悪く、2台とも壊れて明日の朝には1台も稼働していない状態にある確率も

1/4×1/4=1/16

あります。

同じように、今朝1台稼働していて明朝0台になる確率や、今朝0台で明朝2台になる確率なども一様に決まるため、今朝の各状態から明朝の各状態に遷移する確率はすべて分かります。

しかも、明朝の台数は今朝の台数だけに依存していて、昨日までの台数は無関係です。

そのため、この問題はマルコフ連鎖で分析することができます。

【マルコフ連鎖と遷移確率行列】5年後に太ってしまう確率は何%?

 

遷移確率行列を求める

それではまず各状態から各状態への遷移確率をすべて求めてみましょう。

状態は0、1、2の3つしかありませんから、

0⇒0、0⇒1、0⇒2、1⇒0、1⇒1、1⇒2、2⇒0、2⇒1、2⇒2

9通りの遷移確率があります。

 

まずは今朝に0台、明朝も0台になる遷移確率(0⇒0)を考えてみましょう。

今朝0台ということは、(あってはならないことですが)2台とも故障して代替機待ちということです。

この2台が故障したのはいつでしょうか?

1日前か2日前と思いますね。

でも2日前というのはありえないのです。

なぜなら、2日前に故障していたら今朝には代替機が届いているはずなので、今朝0台ということはありえません。

ですので、2台が故障したのは1日前です。

すると、これらの代替機は明朝に両方とも配送されるはずなので、明朝は絶対に2台あることになります。

従って、今朝0台で明朝も0台(0⇒0)の確率はゼロです。

また今朝0台なら明朝には絶対に2台になるので、0⇒1の確率もゼロで、0⇒2の確率は1になります。

 

次に1⇒0の確率を考えてみましょう。

今朝1台しかないということは、昨日1台故障したということですね。

なぜならこの1台が2日前に故障していたら、今朝には代替機が配送されているので、今朝は2台ないとおかしいからです。

そして昨日故障した1台の代替機は、明朝には絶対に配送されます。

従って、明朝も0台ということはありえない、つまり1⇒0の確率はゼロです。

 

では1⇒1の確率はどうでしょうか?

昨日故障した1台の代替機は絶対に明日には配送されますが、今朝稼働しているもう1台が今日中に故障する可能性もあります。

そうなる確率は1/4ですので、1⇒1の確率は1/4です。

 

では1⇒2の確率はどうでしょうか?

こうなるのは今朝稼働していた1台が今日も元気に稼働する場合ですね。

そうなる確率は3/4ですので、1⇒2の確率は3/4になります。

 

次に2⇒0の確率を考えてみましょう。

今朝2台あって明朝0台になるということは、今日中に2台とも故障するということですね。

そうなる確率は1/4×1/4=1/16です。

 

では2⇒1の確率はどうでしょうか?

そうなるのは今朝稼働している2台のうちどちらか1台が故障して、もう1台が故障しない確率なので、

1/4×3/4+3/4×1/4=6/16

です。

 

最後に2⇒2の確率です。

これは今朝稼働していた2台が2台とも今日中に故障しない確率なので、3/4×3/4=9/16です。

 

これですべての遷移確率が求まりました。

遷移確率行列でまとめて書くと、次のようになります。

 

この例の場合、時間ステップは日ですので、上図でtは今日、t+1は明日という意味です。

 

1週間後の遷移確率を求める

遷移確率行列は1時間ステップ後の遷移確率を表しますが、n時間ステップ後の遷移確率はになることを

【マルコフ連鎖と遷移確率行列】5年後に太ってしまう確率は何%?

で示しました。

 

ですので、先ほど求めた遷移確率行列をとすれば、1週間後の遷移確率行列はになります。

の7乗はExcelを使って次のように計算できます。

 

の7乗の(2,2)成分は0.64になりました。

従って、今日2台稼働しているとしたら、1週間後も2台稼働している確率は64%ということです。

 

ここで、一つ気づくことがありますね。

計算結果をよく見ると、Pの6乗も7乗も同じ値になっています。

更によく見ると、Pの5乗もほぼ同じ値ですね。

このことからPの無限大乗まで計算しても、値は変わらないと推測できます。

つまり、この遷移確率行列はある程度の日数が経過した後の定常状態を表していると考えることができます。

 

従って、この翌々日配送を続けていれば、常に2台稼働を保てる可能性は64%しかないことになります。

またPの7乗の結果から1台稼働になる確率は32%、0台稼働になる確率は4%ですから、在庫を1台持っておけば96%2台持っておけば100%の確率で、常に2台稼働できる状態を保てるということが分かります。

 

最後に

この例では遷移確率行列の階乗を大きくしていくことにより定常状態が得られましたが、常にこうなるわけではありません。

いつまで経っても定常状態に収束しない遷移確率行列もあります。

その条件は何か?

定常状態をもっと簡単に求める方法は?

それがこちらです↓

マルコフ連鎖が不変分布に収束するための条件を図でわかりやすく解説