最恵国待遇って何?取り消すってどういうこと?についてわかりやすく解説

2024年5月18日

最近、「最恵国待遇」の取り消しが世界中で話題になっています。

最恵国待遇とは一体何でしょうか?

VIP待遇のこと?

いえいえ違います。

この最恵国待遇の意味を知ることは、国際貿易で欠かせない関税について理解することにもつながります。

まずは関税の種類から見ていきましょう。

 

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関税の種類

関税とは輸入品にかかる税金のことで、商品分類によって税率が異なります。

例えば日本に牛肉を輸入する場合は基本38.5%、自動車を輸入する場合はゼロです。

「基本38.5%」と言ったのは、どこ産の牛肉かによって違う税率になることもあるからです。

例えば米国産の牛肉は38.5%だけども、オーストラリア産の牛肉は28.8%、ミヤンマー産の牛肉はゼロになります。

このように同じ商品分類でも違う税率になるのは、関税にも何種類かあるためです。

大きくは国定税率協定税率EPA税率の3種類に分けられます。

この中で一番よく使われているのは協定税率ですので、まずはこれから見ていきましょう。

 

協定税率

WTO(世界貿易機関)という貿易に関するルールを決めている国際機関があり、164か国が加盟しています。

これらWTOの加盟国に対しては等しく課税しましょうということになっています。

自国以外の163か国からの輸入品に対しては、同じ商品分類であれば同じ税率を適用しないといけないルールです。

このルールに則った税率が協定税率です。

WTOには164か国も加盟していますので、加盟していない国の方が稀です。

ですので、この協定税率が最もよく使われます。

冒頭の牛肉の例でいうと、米国産の牛肉にかかる関税率38.5%は協定税率です。

 

国定税率

基本税率

ではWTOに加盟していない国からの輸入品に対しては、どんな税率が適用されるのでしょうか?

協定税率はWTO加盟国用の優遇税率ですので、勿論、それより高くなります。

この優遇がない普通の税率のことを基本税率といい、国が定める国定税率の一種です。

 

暫定税率

このように基本税率は高いのですが、例外規定もあります。

それが暫定税率と呼ばれ、期間限定で適用される税率です。

例えば農産品の場合、国内の農家を安い輸入品から守るために、関税で大量輸入されないような仕組みにしています。

例えば、国内の生産コスト以下の輸入品には高い税率を課したり、少量の輸入は無税だけども大量の輸入には高い税率を課すといった仕組みになっています。

これらの基本税率と暫定税率は、協定税率より高い税率になります。

 

特恵税率

これに対して協定税率よりも低い国定税率もあります。

それが特恵税率です。

これは開発途上国からの輸入を促進して、それらの国を支援するために特別に低く設定した税率です。

この税率は通常、協定税率より低く設定されています。

 

冒頭の牛肉の例でいうと、この特恵税率によりミャンマー産の牛肉にかかる関税はゼロになっています。

 

このように国定税率には3種類あり、通常

基本税率>暫定税率>(協定税率)>特恵税率

の関係にあります。

 

EPA税率

WTOは164か国が加盟する多国間の貿易協定ですが、二国間または二地域の貿易協定もあります。

それがFTA(Free Trade Agreement;自由貿易協定EPA(Economic Partnership Agreement;経済連携協定と呼ばれる自由貿易協定です。

2つの呼称があってややこしいですが、EPAは日本独特の呼称です。

日本政府の見解ではEPAはFTAよりも広い概念のようです。

一方、「自由」という言葉が入っていると抵抗する人たちがいるため、あえて違う呼称を考えたという話しもあります。

 

これらの自由貿易協定はWTOより加盟国が大幅に少ないため、より思い切った優遇税率を設定できます。

WTOだと163か国と交渉しないといけないところを、EPAでは1か国(もしくは地域)と交渉すればいいだけなので楽ですね。

ですので、通常、EPA税率は協定税率より低い設定になっています。

しかし、開発途上国の発展を促進することを目的とする特恵関税と比べると、同等かそれよりも高く設定されています。

 

冒頭の牛肉の例では、日オーストラリア経済連携協定というEPAにより、オーストラリア産牛肉の関税は協定税率38.5%より低い28.8%になっています。

 

以上をまとめると、多少の例外はありますが、各税率の高低は一般的に次のような関係になっています。

基本税率>暫定税率>協定税率>EPA税率>特恵税率

 

最恵国待遇とは?

協定税率の節で、WTOの加盟国に対しては等しい税率で課税しましょうというのが協定税率ですと説明しました。

実はこのルールこそが最恵国待遇と呼ばれるものです。

ですので、ある国を特別待遇扱いするのではなく、

他国に与えている最も良い待遇と同等の待遇を他の加盟国にも与えること

が最恵国待遇の定義です。

皆と同じように平等に扱いますよということです。

VIP待遇と真逆ですね。

 

最恵国待遇はMost Favored Nation Treatmentの日本語訳のため、協定税率はMFN税率とも呼ばれ、実務ではこちらの呼称の方がよく使われています。

 

最恵国待遇を取り消すことの意味

基本税率の適用

最恵国待遇とは言い換えれば、ある国からの輸入品に対して低税率を設定して優遇することではなく、ある国からの輸入品にだけ差別的に高い税率を課すことを禁止する取り決めです。

仲良しクラブの仲間たちは平等に優遇しますよということです。

従って最恵国待遇を取り消すということは、その国を仲良しクラブから追い出して、優遇措置も剥奪しますよということです。

そして優遇措置がなくなれば、基本税率暫定税率の高い税率を適用することになります。

 

カナダが3月3日、ロシアに対する最恵国待遇を取り消して35%の輸入関税を課すことを発表しましたが、これはカナダの基本税率が商品分類に拘わらず一律35%であるためです。

日本の場合は基本税率がカナダほど高くないため、最恵国待遇を取り消しても税率の上昇幅はそれほど大きくありません。

 

歴史からの教訓

第二次世界大戦が終了して間もない1948年、世界の貿易を促進するために関税の軽減や撤廃を目的としたGATT(General Agreement on Tariffs and Trade;関税貿易に関する一般協定)が発効しました。

日本も1955年に加盟しました。

GATTでは大規模な交渉が7回行われましたが、最も有名なのはウルグアイラウンドではないでしょうか。

7年間に及ぶ長期交渉の末、1993年に最終合意しました。

 

そして1995年にはWTOに衣替えしました。

GATTは国際協定に過ぎなかったのですが、WTOは国際機関ですので進化したと言えるでしょう。

そして加盟国には平等に関税率を設定するという最恵国待遇の原則が規定されました。

 

しかし最恵国待遇の原則はWTOで生まれたものではなく、第二次世界大戦以前からありました。

ところが、1929年に始まった世界恐慌の影響を受けて世界各国が保護主義政策をとった 1930 年代には、英連邦の貿易制限措置(通称スターリングブロック)やフランスのフランブロックなど経済のブロック化が進みました。

そしてそれが第二次世界大戦の要因の一つになったともされています。

現在起こっている最恵国待遇の取り消し騒動は、その歴史をなぞる危険な兆候と言えるのではないでしょうか。