【Form Dとは?】申請方法や三国間貿易/中継貿易に使う際の注意点をまとめてみた
国際物流、または貿易に携わって間もない頃、周りの人たちがForm DやForm Aがどうのこうの言っているのを聞いて、
「何の様式のことだろう?」
と思ったのは管理人だけでしょうか?
Form DとはASEAN物品貿易協定で使う原産地証明書
原産地証明書には2種類ある
Form DとはATIGA(ASEAN Trade in Goods Agreement:ASEAN物品貿易協定)と呼ばれるアセアン域内の自由貿易協定(FTA)を使って関税を免税、もしくは減税にするために使う原産地証明書のことです。
世界には色々なFTAがありますが、その制度を使って関税を免税や減税するためには、輸入貨物がFTA締結相手国の原産であることを証明する必要があります。
これはただ単に貨物にMade in ××と書いてあるだけではダメで、その国で十分な生産工程を経たことを論理的に証明する必要があります。
輸出国の然るべき第三者機関に対してその証明をして、認められれば原産地証明書を発行して貰えます。
つまり、Form Dとはアセアンのある輸出国Aの第三者機関が、同じアセアン域内の輸入国Bの税関に対して、
「この貨物は確かに輸出国Aの原産品です」
ということを宣言する証明書のことです。
少し混乱するのが、原産地証明書には2種類あることです。
Form DのようにFTAで関税を免税または減税にするための原産地証明書のことを特定原産地証明書と言います。
そしてもう一つ、一般原産地証明書と呼ばれるものも存在します。
こちらはFTAを使わない場合でも、輸入国側の法律によって要請されることがあります。
例えばミャンマーの輸入ではいつも必要です。
またL/C(信用状)決済を行う場合は、必要船積書類の一つとして要請される場合もあります。
Form DはアセアンのFTAを使う時に使う特定原産地証明書のことです。
特定原産地証明書には様々な名称がある
このForm Dに似たものとしてForm EやForm AJ等もあります。
アセアンが関わるFTAで使われる特定原産地証明書には、以下のような種類があります。
Form Aとは一般特恵関税制度で使う原産地証明書
ではForm Aとは何でしょうか?
これは一般特恵関税制度(Generalized System of Preferences: GSP)を利用して関税を免税もしくは減税にする時に使う原産地証明書のことです。
一般特恵関税制度とはUNCTADで開発途上国の経済発展の促進を目的として合意された制度の枠組みで、開発途上国から輸入する貨物に対して関税を減らす制度です。
中でも特に発展が遅れている国向けには特別特恵関税制度が適用され、関税は基本的にゼロに免税されます。
これら2つの制度を使う時に使用される原産地証明書がForm Aです。
Form Dの申請方法
以上から分かる通り、Form DもForm Aも日本では発給されません。
Form Dはアセアン発の貨物に、Form Aは開発途上国発の貨物に対して原産性を証明するためのものなので当たり前ですね。
しかし、海外の物流を管理する時に、その国の事情を理解していると大変役に立ちます。
また、どこの国でも大体やり方は似たようなものなので、日本のやり方と比べながら理解することにより、グローバルスタンダードや日本の特殊性も分かります。
発給機関は国により様々
さて、Form Dはアセアン各国で発給されるものですが、発給機関は国により違いがあります。
例えばシンガポールでは税関(Singapore Customs)が発給します。
しかしタイでは商務省外国貿易局(Department of Foreign Trade, Ministry of Commerce)が発給します。
このように国により違いはありますが、いずれも政府機関が発給します。
その点、商工会議所のような非政府機関が発給する日本とは異なります。
申請は2段階
しかし申請の流れは日本の場合と大変よく似ています。
まずは申請会社の登録をします。
この時、輸出者がメーカーであれば問題はありませんが、商社である場合は少し複雑です。
通常、原産性を証明するための資料は仕入先のメーカーが持っていて、しかも機密事項である場合が多いためです。
その場合、原産性の証明はメーカーが行い、Form Dの申請は商社が行うのが普通です。
実はForm Dの申請には2段階あって、最初に商品アイテムごとに原産性の判定、次に輸出毎にForm Dを都度申請するという流れになります。
ですので、上記のようにメーカーと商社との間で役割分担ができるのです。
この場合、メーカーは原産性判定結果を、商社が行うForm Dの申請に使うことに同意する旨をシステム上で入力することになります。
原産性の判定は日本より厳しい
この流れ自体は日本で特定原産地証明書を申請するのと似ているのですが、原産性の判定はForm Dの方が少し厳しいです。
日本では原産地の判定基準(SPやCTHやRVC等)を商品アイテムごとにシステムに入力するだけなのに対して、アセアンの国ではその判定基準を使って計算した資料の提出も求められるからです。
たまに実際に工場へ視察に来たりもします。
日本は性善説で申請企業を信用しているとも言えます。
この原産性の判定には国により違いますが、大体一週間くらいかかります。
OKと判定されると原産品判定番号が貰えますので、その番号を使ってForm Dの申請を行います。
この申請にはインボイス番号やETD等の情報が必要ですので輸出間際にならないと申請できませんが、申請すれば一日で発給されるので通常は問題ありません。
Form Dを三国間貿易に使う際の注意点
三国間貿易(仲介貿易)ではモノとカネの流れが別になります。
輸出国で発行されるB/L(船荷証券)はシッパー:売り手、コンサイニー:買い手と記載されていて、そのまま輸入国の売り手に渡ります。
またForm D等の特定原産地証明書もシッパーは売り手、コンサイニーは買い手です。
一方で、インボイスは売り手が発行したものを仲介者が次のように変更して差し替えます。
大抵の貿易では
シッパー=セラー
コンサイニー=バイヤー
ですが、物流と商流が分かれる仲介貿易ではこれらをきちんと区別する必要があります。
具体的には次のようにします。
インボイスにこのように記載することによって、輸出国税関も輸入国税関も理解できます。
更に、Form Dにも一か所追記する箇所があります。
Form Dの下の欄で「Third Country Invoicing」をチェックしましょう。
Form Dにはセラーとバイヤーを記載する欄がありませんが、この欄をチェックすることにより輸入国税関は三国間貿易なのだと認識できます。
通常はこれで三国間貿易でもForm Dを使えるようになるはずですが、国によっては、というか税関員によっては切替後のインボイス上の記載を次のようにするよう求められることがあります。
シッパー=仲介者
コンサイニー=買い手
シッパーとセラー、またコンサイニーとバイヤーは同じでなければならないということです。
シッパーとコンサイニーは物流上の概念、セラーとバイヤーは商流上の概念ですので全く別物なのですが、たまに税関員のレベルにばらつきのある国があるので要注意です。
輸入国で通関を依頼する物流業者がしっかりしていれば、このような場合でも税関員の判断を覆すことは可能です。
Form Dを中継貿易に使う際の注意点
この場合は、輸出国で発給してもらったForm Dを元に、中継国でBack to Back Form Dを発給してもらうことになります。
詳しい説明については、こちらを参照してみて下さい。
【Back to Back CO】中継貿易に特恵関税を適用して関税を合法的に減らす方法
注意点としては、中継は1回しかできないことがあります。
例えば、タイで製造された貨物をマレーシアで中継してシンガポールに送るとすると、マレーシアではBack to Back Form Dを発給して貰えます。
しかしその後、シンガポールで売れ残ったからインドネシアに送ろうとしてもBack to Back Form Dは発給して貰えません。
通常、このスキームは中継国にあるメーカーの販社がよく使います。
例えば、タイとインドネシアに製造拠点があるメーカーがシンガポールにアセアンを統括する販社を持っている場合です。
この場合はシンガポールの販社が一旦各製造会社から買い取る形になり、そのまま再輸出のシ輸出者になります。
商流と物流が一致するため、Back to Back Form Dを発給してもらう難易度は低いと言えます。
これに対して、バイヤーズコンソリデーションを組み合わせる応用問題もあります。
こちらは中継国で輸入する複数の会社が一旦買い取った貨物を、バイヤーズコンソリデーションで別のシッパーがまとめることになります。
この時、通常シッパーは貨物の所有者、つまり輸出者にはならずシッパーになるだけです。
Back to Back Form Dには輸出者を記載する欄がありますが、ここに中継国で輸入した会社を書くか、シッパーを書くかは国によって、というか税関員の判断によって変わってきます。
この辺りは柔軟な対応が必要で、現地の物流会社の腕の違いが現れるところです。
ちなみに、Back to Back Form Dと言っても普通のForm Dと同じ書式です。
左下にあるBack to Back COの欄にチェックが入っているので分かります。