EOQ(経済的発注量)を発注実務に応用する方法~海上輸入による調達を例に~

2023年10月12日

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EOQ(経済的発注量)とは?

EOQとはEconomic Order Quantity経済的発注量)の略で、保管コストと発注コストの和が最小になるような発注量のことです。

でも保管コストはいいとして、発注コストって何でしょうか?

 

よく言われるのは注文書を送る時にかかるFAX代などの通信費や事務作業にかかる人件費ですが、

「それっていつの時代の話し?」

って感じですね。

実際、EOQが考案されたのは100年以上も前の話しで、今の時代にはあまり使いようのない時代遅れの理論とも言われています。

 

でも発注のたびにかかるコストには、このような事務費用だけでなく輸送費もあり、発注コスト輸送コストと読み替えるとまだまだ使える理論です。

 

EOQは国際物流にも使える

海外のベンダーに発注して海上輸送のFCLで輸入する場合を考えてみましょう。

取引条件はCIFとします。

この場合、発注者であるあなたが別途手配しないといけない輸送コストは、主に港湾料輸入通関料ドレージ料の3つです。

一方の保管コストは、コンテナで輸入した商品が売れるまで保管しておくコストです。

 

これら輸送コストと保管コストの和(トータル物流コスト)を最小にするには何ヶ月間隔で発注すればよいか、これを決めるためにEOQ理論は使えます。

 

EOQExcelで計算する方法

年間需要量が少ない場合

それでは具体的な例でEOQを求めてみましょう。

 

あなたの会社は砂糖の輸入商社です。

来年の売上計画は年間6,000箱です。

CIFの商品価格は3,000円/箱です。

40フィートコンテナに1,000箱積むことができます。

日本に着いてから倉庫に入庫するまでの輸送コストは、港湾費用/通関費用/ドレージ費用を合わせて1回の輸入当たり14万円です。

倉庫での保管費用は商品1箱当たり年間2,000円です。

 

この場合、年間コンテナ本数は6本で、2ヶ月分まとめてやっとFCLになる物量なので、年間需要は少ないといえます。

1回の輸入で何箱を発注すればよいかは、EOQの公式に当てはめることによって次のように求めることができます。

 

EOQ=√((2×輸送コスト×年間需要量)/保管コスト)

=√((2×140,000×6,000)/3,000)

=917

 

コンテナ1本に1,000箱積むことができますが、917箱しか積まない方が物流コストは安いということです。

また1度に917箱を発注すれば年間需要は6,000箱なので、約2ヶ月に1回の発注です。

つまり約2ヶ月に1度、917箱を発注するのがよいということになります。

 

次に発注量によってトータル物流コスト(保管コスト+輸送コスト)がどれくらい変わるのかを見るためにグラフにしてみましょう。

発注量がEOQ(=917)である場合のトータル物流コストは次のように計算できます。

 

この発注量を200から3,000まで変えてそれぞれの場合のトータル物流コストを計算すると、次のようなグラフができます。

 

 

発注量が増えると保管コストは上がると同時に輸送コストは下がります。

トレードオフの関係にあるわけですが、発注量が917の時に両者は一致し、その時にトータル物流コストが最小になります。

 

年間需要量が多い場合

以上は貨物量が少ないケースですが、もっと貨物量が多くて毎月複数のコンテナを輸入するようなケースではどうでしょうか?

1回の発注で複数コンテナを輸入することも考えられますね。

容易に想像できるように輸送コストがコンテナの本数により変わってくるため、EOQ理論の前提である「発注当たりの輸送コストが一定」という条件を満たしません。

しかしこの場合でもEOQ理論の考え方は使えます。

 

ここではコンテナの本数によって輸送コストが次のように変わることを想定します。

コンテナ1本:140,000円

コンテナ2本:240,000円

コンテナ3本:340,000円

 

すると、各発注量に対する保管コスト、輸送コスト、トータル物流コストは次のようになります。

 

このグラフを見ると、発注量が1,000箱から1,001箱に変わる時に輸送コストが一気に180万円ほど増えていることがわかります。

これはコンテナ2本になるので発注1回当たりの輸送コストが10万円アップしますが、発注が年間で18回ある(年間需要が18,000箱に対して1回当たりの発注量が1,000箱なため)ので年間の輸送コストは180万円アップします。

この発注量が2,000箱に近づくにつれて輸送コストは1,000箱の時よりも小さくなっていき、2,001箱になるとまたグンと増えるという感じになっています。

 

しかしトータル物流コストを見ると1,000箱発注する時が最小になります。

,000箱まとめて発注する方が安くなりそうですが、輸送コストは安くなるものの保管コストが高くなるためトータルでは1,000箱ずつ発注する方が安くなるのです。

 

それではいつもこのようにコンテナ1本ずつに分けて発注した方が安いかというと、そうでもありません。

保管コストが500円の場合には次のようになります。

 

少しわかりづらいですが、発注量2,000箱の時にトータル物流コストが最小になっています。

これは保管コストが安いために、まとめて発注すると輸送コストの減少が保管コストの増加を上回るためです。

 

商品価格に大口割引がある場合

以上のように商品価格が何個発注しても一定の場合には、トータル物流コストを指標として発注量を決定できますが、商品価格が変わる場合には商品価格も含めたトータル調達コストで判断する必要があります。

大口割引がある場合が典型例です。

 

保管コストが2,000円の場合のEOQは1,000箱でしたが、もし1度に3,000箱をまとめて発注すると商品代金を5%割引してくれる場合には、1,000箱を発注した時(割引なし)と3,000箱を発注した時(割引あり)のトータル調達コストを比較すればよいでしょう。

次のように計算できます。

 

割引あり(3,000箱発注する場合)の方がトータル調達コストが安くなりました。

トータル物流コストで比較するとEOQである1,000箱ずつ発注する方が安いのですが、3,000個をまとめて発注することで商品価格が5%安くなるため、物流コスト増の影響を吸収できたのです。

 

まとめ

EOQ理論は時代遅れの机上の空論ではなく、今の時代でも十分に活用可能です。

今回は

  • 発注コスト(輸送コスト)が変化する場合
  • 大口割引がある場合

の計算方法を取り上げましたが、在庫が陳腐化するリスクがある場合にはそのリスクを定量化して保管コストに含めることでEOQ理論を使うことができます。

 

またEOQ理論では需要が安定していることを仮定しているため安全在庫を考慮していませんが、安全在庫理論と組み合わせることで更に応用範囲が広がります。

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