フォワーダーの各国法人間でのプロフィットシェアはどうやっているのか?
フォワーダーでプロフィットシェアが必要な理由
工場の中で生産活動が完結する製造業と違い、物流の作業は拠点をまたがって発生します。
例えばある物流会社の倉庫Aから倉庫Bへ貨物をトラック輸送する場合を考えてみましょう。
この場合、少なくとも
- 倉庫Aで貨物をトラックへ積み込む作業
- 貨物をトラックで倉庫AからBへ輸送する作業
- 倉庫Bで貨物をトラックから降ろす作業
の3つの業務が発生します。
物流会社では通常部門ごとに採算を管理していますから、1の作業は倉庫Aのコスト、2の作業はトラック部門のコスト、3の作業は倉庫Bのコストになります。
営業担当者はこれら3部門のコストを把握した上で、その合計に利益を載せた額を顧客に請求します。
営業担当者にとっては同じ会社内での社内調整ですので気は楽です。
これに対してフォワーディングでは国際輸送になるため、2の作業が積み地国と揚げ地国の共同作業になります。
通常、これら2か国には別々の現地法人がありますので、別会社による共同作業になるわけです。
例え同じ親会社に属するグループ会社同士であっても、会社が違えば各々の会社の採算を良くしようと駆け引きが発生します。
従って、2国間での利益配分方法を決めておかないと後々争いになってしまいます。
この利益配分方法をグループ会社間で定めたものがプロフィットシェアスキームです。
どのフォワーダーも何かしらのプロフィットシェアスキームがありますが、そのやり方は会社により様々です。
その中から代表的な類型を2つ紹介します。
プロフィットシェアの2つの類型
粗利益を折半する方法
一番簡単なプロフィットシェアの方法は、利益を半々に折半するやり方です。
ここでいう利益とは粗利益のことです。
フォワーディングの場合は、顧客への売値から船社からの仕入れ値を引いた値になります。
このやり方はシンプルで公平なやり方に見えますが、問題もあります。
第一に、各国法人の業務負荷がそもそも同じなのかという問題です。
まず積み地国法人の業務内容を見てみましょう。
顧客から貨物量とスケジュールを聞いて最適な船便を提案し、了承が得られたらブッキングします。
その後は顧客と貨物の内容について確認を取りながらハウスB/Lを作成しつつ、船社が発行するマスターB/Lも確定させないといけません。
また貨物がスケジュール通りに積み地港に着くかのチェックも必要ですし、船が出港してからの動静確認も必要です。
社内でシステム管理している場合には、システムへの入力項目も多岐に及びます。
これに対して揚げ地国法人の業務負荷はかなり低く、アライバルノーティスを顧客に出して貨物の引き取りを代行するくらいしかありません。
輸入通関も一緒に依頼された場合はそれなりに業務負荷はありますが、これに対する対価は別業務として揚げ地法人単独で顧客に請求しますので別カウントです。
このように比較すると、積み地国法人から見ると半々では不公平だろということになるわけです。
更に、そのフォワーディング業務を積み地国法人が営業して取った場合、この不公平感はもっと大きくなります。
こちらは顧客に頭を下げてやっと獲得できた案件だというのに、僅かな業務負荷しかない揚げ地国になぜ半分も利益を持っていかれるのだという風に思ってしまうのです。
更にこの不満が高まると、Cheat(ごまかす)してやろうという誘因が働きます。
マスタープリペイド/ハウスプリペイドの案件では、積み地国法人が船社からの仕入れも顧客への請求も行いますので、揚げ地国法人からは本当のところが見えません。
売値-仕入れ値で500ドルの粗利益があっても、200ドルしかなかったよということにして100ドルしかプロフィットシェアしないなんてことも可能です。
フレイトプリペイドとコレクトとは?マスタB/LとハウスB/Lそれぞれについて解説
このようなグループ法人間の駆け引きに労力を割くのはムダで、何の価値も生みません。
またこのようなCheatをすると、その業務でいくら儲かったのかという損益管理も経理データと整合が取れない不正確なものとなります。
このような属人化されたプロフィットシェアをさせない仕組みが次に紹介するやり方で、欧米のメガフォワーダーでは長らくこれが一般的です。
業務負荷に応じて利益配分する方法
先のプロフィットシェアでの問題点は、
- 業務負荷が反映されていない
- 営業努力に対する報酬が反映されていない
ことでした。
ですので、まず1については積み地国での業務負荷と揚げ地国での業務負荷を精査して、例えば3:1という風に決めます。
この比率はフォワーダーにより異なります。
そして、プロフィットシェアの配分比率もそれに合わせます。
次に2については営業して案件を獲得した法人を別に定義して、プロフィットシェアをするメンバーに加えます。
つまり、積み地国法人と揚げ地国法人の2社間だけでプロフィットシェアするのではなく、案件を獲得した法人も合せた3社間でプロフィットシェアするのです。
プロフィットの配分比率はそのフォワーダーのポリシー次第です。
例えば案件獲得国には20%を配分するという風に決めると、先ほどの積み地国と揚げ地国の配分比率3:1と合せると、
案件獲得国:積み地国:揚げ地国=2:6:2
という配分比率になります。
勿論、積み地国か揚げ地国が案件獲得国になることが多いため、実際には2国間のプロフィットシェアになります。
例えば積み地国が獲得した案件であれば、
積み地国:揚げ地国=8:2
という配分比率になります。
このようにすることにより、積み地国と揚げ地国の取り分に業務負荷を反映させ、かつ営業努力に対する対価も与えて新規営業を促すような仕組みにもなります。
ちなみにこのようにプロフィットシェアの中身を明確にすると、経理処理も併せて変える必要があります。
まず、積み地国に支払う粗利益の60%と揚げ地国に支払う20%は、遠隔地におけるフォワーディング業務の下払いなので売上原価として計上します。
一方、案件獲得国に支払う20%は営業活動に対する対価ですので販売管理費として計上します。
大手フォワーダーに欠かせないグローバルERP
このようなプロフィットシェアの仕組みにより合理性が増し、各法人の納得感も高まるので、Cheatをする誘因は下がります。
でもグループで統一したプロフィットシェアの比率は最大公約数的なものなので、すべての法人が納得するとは限らず、Cheatを根絶することはできません。
これを根絶するには、やはりシステムの力を借りないとだめでしょう。
先述したように、本当は500ドルの粗利益があるのに200ドルしかないように見せかけるというのは、Excelで実績管理をしている法人では簡単にできてしまいます。
そのような法人でも経理については専用の経理システムを使っているケースがほとんどですので、帳簿上ではそのようなCheatはできません。
しかし、いくらグループ法人といえども帳簿までは他法人には公開しないため、バレることはないわけです。
このように業務はExcel管理+経理は経理システムだとCheatは防げませんが、業務も経理も同じシステム、つまりERPを導入するとそのような問題は解決されます。
しかし、一口にERP導入といっても各国にまたがって業務を行っているフォワーダーに導入するのは一筋縄ではいきません。
大きな国と小さな国とでは業務内容や業務量が異なりますし、法律や業界独特のしきたりも異なるためです。
でも世界中で統一されたサービスレベルを求める荷主を相手にする大手フォワーダーにとっては、避けて通れない道になってきています。
このようにグローバルでERPを統一するという業界は、フォワーダーやインテグレータ以外にはあまりないのではないでしょうか?
人のふんどしで相撲を取っているだけに見えるフォワーダーですが、そういう面では何気に進んだ業界なのです。