ターミナルハンドリングチャージとは?THCのことだけをわかりやすく!
とても分かりにくいターミナルハンドリングチャージ
フォワーダーからの海上輸送の請求書には、いろいろ分かりにくい請求項目が載っていますね。
その中の一つにターミナルハンドリングチャージがあります。
英語ではTerminal Handling Charge、略してTHCと呼ばれます。
これって何?
港の中でコンテナをハンドリングするための費用だろうということは、漠然と想像できますね。
でもこの費用は港湾業者から請求されるのではなくて、船社チャージと呼ばれる船社からの請求項目に入っています。
その上、同じ船社でも仕向け地によって金額が違ったりします。
一体誰が何をすることに対して私たちはお金を払っているのでしょうか?
よく分からないまま払っている人も多いと思いますので、その仕組みについてちゃんと理解しておきましょう。
コンテナターミナルとは?
港というと、上の写真にあるように沢山のコンテナやキリンみたいなクレーンがある光景が目に浮かびますね。
これがコンテナターミナルですが、誰が運営して何をやっている所なのでしょうか?
コンテナターミナルの機能
コンテナターミナルの役割りを一言でいうと、コンテナ輸送において輸送モードを切り替えるための結節点です。
輸送モードとは船舶輸送とかトラック輸送等のことで、コンテナターミナルにおける輸送モード切替の代表的なパターンには次のようなものがあります。
- 船舶輸送⇒トラック輸送
- 船舶輸送⇒鉄道輸送
- トラック輸送⇒船舶輸送
- 鉄道輸送⇒船舶輸送
- 船舶輸送⇒船舶輸送
このうち1と2は輸入、3と4は輸出、5はトランスシップで登場します。
トランスシップとはA国からB国へ船舶で輸送するのに、ダイレクトで行くのではなく、途中C国で大きな船、もしくは小さな船に積み替えることです。
例えばA国が小国の場合、A国からの貨物量は少ないため小さい船でより大きな貨物量があるC国まで運び、そこで大きな船に載せ変えてB国まで運びます。
コンテナターミナルではこのように輸送モードを切り替えますので、船上に大量にあるコンテナを載せ替えないといけません。
そこで実際には次のような作業が行われています。(輸入でトラックに載せ替える場合)
- 船からガントリークレーン(キリンのような形をしたクレーン)でコンテナをトレーラーに載せ替える
- コンテナがトレーラーによりコンテナヤード1)まで運ばれる
- コンテナヤード内にあるトランスファークレーンにより、トレーラーからコンテナヤードにコンテナが置かれる
- 通関が終わるまで一時蔵置
- 通関終了後、荷主の手配したトレーラーがコンテナヤードに入り、トランスファークレーンでコンテナをトレーラーに載せる
1)コンテナヤードとは通関許可前の貨物を一時的に保管しておくための場所で、保税地域になっている
輸出の場合はこれらの逆の作業が行われます。
コンテナターミナルの運営者
多くの国で港湾を管理するのは、港湾公社や港湾局(ポートオーソリティ)といった公社や公共企業体ですが、日本では多くが地方自治体です。
この港湾の中にあるコンテナターミナルの運営主体には、大きく分けて次の5種類があります。
- 港湾管理者が運営する公共ターミナル
港湾管理者が施設整備や運営を行う公共性の高いターミナルで、どこの船社に対しても料金やサービスは同じです。
- 単独または複数船社(キャリア)が運営する専用ターミナル
マースクやCMA CGM等のメガキャリアが、港湾管理者から施設を単独もしくは共同で長期リースし、自分たち専用もしくは優先で運営する方式です。
- 船社(キャリア)と港湾業者が共同で運営する専用ターミナル
キャリアが港湾運営ノウハウを持った港湾業者と組んで、キャリア専用もしくは優先で運営する方式です。
- 単独または複数船社(キャリア)がPFI方式で運営する専用ターミナル
2と似ていますが、PFI方式(Private Finance Initiative)で運営する点が異なります。
- 単独または複数の港湾業者がPFI方式で運営する共同ターミナル
4と似ていますが、キャリアではなくニュートラルな立場である港湾業者が運営主体である点が異なります。
世界のメガターミナルオペレーター
1960年代後半から始まったコンテナ輸送ですが、国際貿易におけるコンテナ輸送が飛躍的に拡大するにつれて、コンテナターミナル事業が儲かるビジネスになってきました。
そこに目を付けたシンガポールやドバイは、公共のコンテナターミナル運営も行っていたポートオーソリテイ(先の5つの類型のうちの1)を民営化して積極的な海外進出を仕掛けました。
それが今のシンガポールのPSAインターナショナル(世界で45ターミナルを運営)とドバイのDPワールド(世界で52ターミナルを運営)です。
また香港のハチソンはアヘン戦争を機にイギリス人により設立された民営の港湾業者ですが、今では世界中で51ターミナルを運営し、取扱量は世界一です。
キャリア運営のコンテナターミナル世界一はオランダのAPMターミナルズで、世界一のキャリアA.P. モラー・マースクの系列会社です。
日本にもかつては大手キャリアが存在しましたが、コンテナターミナルの収益性の高さに気づいた頃には既に本業が落ち目になっていてそれどころではありませんでした。
また港湾業者にはそもそも世界に打って出るほどの力がなかったため、日本からはメガターミナルオペレーターが生まれるどころか、港湾開発競争においても完全に世界で出遅れています。
ターミナルハンドリングチャージとは?
何をするための費用なのか?
既に2-1節で触れたように、輸入時のオペレーションは次の通りです。
輸出時は逆のフローになります。
コンテナヤード(Container Yard:CY)はコンテナターミナルの中の大部分を占めるスペースがありますが、この場所リース代、クレーン等の設備費、オペレーターの人件費等を考慮してTHCの料金が決められます。
誰が請求しているのか?
THCは上記のようにターミナルオペレーターが行う作業に対する対価ですので、ターミナルオペレーターが請求します。
但し、その請求先はキャリア(船社)です。
そしてキャリアが荷主に請求します。
なぜ、そのような回りくどいことをするのでしょうか?
コンテナ輸送における運賃がカバーする範囲は、バースターム(Berth Term)が基本になっています。
バースタームとは、船への貨物の積み込みや船からの積み卸しはキャリアが費用負担するという条件です。
バースとは船が着岸する場所のことです。
ですからバースタームとは、
「船が着岸する場所まで貨物を持ってきてね。後はキャリアで積み込みはやっとくから」
という意味です。
コンテナ輸送でいうと、
「コンテナターミナルまで貨物を持ってきてね。後はキャリアで積み込みはやっとくから」
ということなので、THCに含まれる作業はキャリアの運賃の見積り範囲に含まれているのです。
ですので、ターミナルオペレーターからの請求はキャリアで受け、海上運賃と併せて荷主に請求します。
誰が支払うべきなのか?
このように、THCはキャリアが請け負うコンテナ輸送の範疇に含まれます。
これを、
- キャリアに支払うコンテナ運送料に含まれているのだからTHCは運賃の一部だ
- キャリア経由で支払っているだけで、あくまでもTHCは港湾荷役料だ
のどちらで解釈するかによって、輸入側のTHCをシッパーが支払うのかコンサイニーが支払うのか意見が分かれます。
輸入側のTHCは、船が到着する直前にキャリアから発行されるアライバルノーティスによりコンサイニーに請求されます。
しかし、もし貿易条件(インコタームズ)がCIFならば海上運賃はシッパー負担のはずですので、1の解釈によればTHCもシッパーのはずです。
ですので、コンサイニーは一旦THCを支払うにしても、後日シッパーに請求できることになります。
2の解釈ですと、THCはコンサイニーの負担となります。
実際、この解釈は微妙なので、貿易を始める前に売買契約書に明記しておきことが望まれます。
特に明記していない場合は2の解釈、つまり輸入側のTHCはコンサイニー側で負担するのが慣わしのようです。
料金の相場は?
次にTHCの料金はいくらなのでしょうか?
これは国により、港により異なります。
更に、同じ港でも異なるターミナルオペレーターが運営しているのであれば、ターミナルによっても異なります。
キャリアから海上運賃の見積りを取る時に確認する必要があります。
世界の国々における料金相場はこちらをご覧ください。
ターミナルハンドリングチャージの相場はいくら?世界のTHCを徹底比較
尚、コンテナというと常温貨物用のコンテナを思い浮かべますが、これはドライコンテナといいます。
冷蔵用や冷凍用のコンテナはリーファーコンテナといい、下図のようにコンテナの外側の先っぽに内部の温度を制御するための制御モニターや電源用プラグ等が付いています。
CY(コンテナヤード)にこれらのリーファーコンテナを蔵置する時には電源ケーブルをつないで、内部の温度が正常か定期的にチェックをします。
そのため、下図のようにオペレーターが通れるような通路がコンテナとコンテナの間に設けられています。
このようにドライコンテナに比べて専用の広いスペースが必要で手間もかかるため、THCの料金はその分高く設定されています。
同様に、コンテナに収まりきらないサイズの大型貨物を運ぶ時には下図のようなフラットラックコンテナを使うことがありますが、この場合にも荷役に特殊機器を使ったり、手間も増えますのでTHC料金は割り増しになります。
まとめ
ターミナルハンドリングチャージ(THC)は、コンテナターミナル内で発生する作業の対価です。
その作業内容は船への積み降ろし、コンテナヤード(CY)での一時蔵置、荷主手配トラックへの積み降ろしです。
コンテナターミナルの運営者(ターミナルオペレーター)は公共機関、キャリア、港湾業者、それらの合弁と色々あり、THCの料金も様々です。
THCはキャリアが請け負うコンテナ輸送の責任範囲であるため、ターミナルオペレーターからの請求は一旦キャリアで立て替えてから荷主に請求されます。
THCをどちらの荷主(シッパーかコンサイニー)が負担するかは微妙な問題ですが、売買契約書に明記していない限りはコンサイニー負担が普通です。