【マースク】応募する前に知っておきたい会社の歴史と収益性と事業内容
Maersk Line(マースクライン)はデンマークのコングロマリットA.P. Møller – Mærsk A/Sの中核事業会社で、世界最大の海運会社でもあります。
Maersk Lineのロジスティクス部門はMaersk Logistics(マースクロジスティクス)と呼ばれ、2020年度の売上高は6,963百万USD、3PLグローバル売上ランキングでは15位です。
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マースクの歴史
海運は2度の大戦で打撃を受けるも戦後は急回復
A.P. Møller – Mærsk A/Sのルーツは1904年にA.P. Møller氏と、その父Peter Mærsk Møller氏がデンマークのSvendborgに設立したSvendborg Steamship Companyです。
1914年に始まった第一次世界大戦では商業船が軍事用に徴用され、それらが次々と撃沈された結果、船舶不足による供給不足から利益が増え、不足する船舶への需要に応える形で造船業にも参入します。
1928年には米国東海岸と極東をつなぐ定期船の運航も開始しますが、第二次世界大戦中にデンマークがナチスドイツに占領されると、25隻の船舶を徴用されるという打撃を受けました。
しかし戦後は順調に業績を拡大し、1975年には現在の主力事業となっているコンテナ船を投入し始めます。
1999年からの大型買収で2005年からは海運世界トップシェアを維持
1999年には海運大手のSafmarine(South African Marine Container Lines N.V.)とSeaLandのコンテナ輸送部門を相次いで買収します。
前者はSafmarineのブランド名を存続させ(2019年にMaersk Lineに統合し消滅)、後者は即座にMaersk Lineに統合する代わりに統合後の社名をMaersk Sealandに変更しました。
2005年には当時コンテナ輸送量で世界3位だったP&O Nedlloydを買収し、社名を再びMaersk Lineに戻します。
この時点でMaersk Lineのコンテナ輸送量は世界シェアの18%を占めるようになり、その後多少の変動はあったものの、このシェアを維持して世界1位の座は不動になっています。
ロジスティクスの片方のルーツは蘭海運NedlloydのDamco
次にロジスティクス部門の歴史を辿ってみましょう。
Maersk Lineのロジスティクス事業は、2020年までDamco(ダムコ)というブランド名の元で行われていました。
Damcoの起源は偶然なことに、Maersk Lineが創業した1904年の翌年である1905年、オランダでフォワーディング会社として創業したC.W.H. van Dam & Coです。
1918年にDamcoに社名変更して、フォワーディングから倉庫業務まで順調に事業を拡大した後、1988年にオランダの海運会社であるDutch Royal Nedlloyd Groupに買収され、社名がDamco Maritimeに変わります。
続いて1996年に親会社のDutch Royal Nedlloyd GroupがイギリスのP&O Containersと合併してP&O Nedlloydになったのをきっかけに、社名がDamco Sea & Airに変わります。
このP&O Nedlloydが2005年にMaersk Lineに買収されたのは先述した通りです。
もう一つのルーツはMærsk Logistics
一方、Maersk Lineにもロジスティクス部門がありました。
その起源は1977年に台湾、香港、シンガポールから混載輸送サービスを開始したのがきっかけです。
先述の通り、Maersk Lineは1975年からコンテナ船サービスを開始していますが、1本のコンテナに満たない荷主の貨物を、台湾や香港、シンガポールに設けた倉庫でまとめて1本のコンテナに仕立てるために倉庫業務が必要になり、またそれに伴うフォワーディング業務も必要になったためです。
このサービスはMercantileという会社で行われました。
そして1999年にMaersk LineがSeaLandを買収したことで、Mærsk Logisticsに会社名が変更されました。
2005年からロジスティクス事業はDamcoに統一
そして遂に2005年Maersk LineがP&O Nedlloydを買収したことで、Damco Sea & AirがMaersk Lineの傘下に入り、Mærsk Logisticsの業務がDamco Sea & Airに移管され、ほぼ1世紀ぶりにDamcoという会社名が復活しました。
Maersk Lineのロジスティクス業務はDamcoというブランド名で展開されることになったのです。
2018年からロジスティクス事業はマースクラインに吸収、Damcoは消滅
ところが2018年に入ると、Maersk LineはEnd-to-Endのロジスティクスを自社で展開する方針に転換します。
それまでは、というより今もそうですが、荷主企業は海運会社と直接契約するよりもフォワーダーと契約するのが一般的です。
最大手のMaersk Lineといえどもシェアは18%しかないため、色々な海運会社の便を選択できるフォワーダーを通す方が機動的に便を手配できるためです。
またフォワーダーを通せば、海上輸送以外の通関や国内配送や倉庫業務等もワンストップで手配してくれることも荷主にとってメリットです。
後者のメリットについては、海運会社が自社にノウハウを取り込めば自ら行うことができます。
問題は前者ですが、これも貿易のDX化が進めばゲームのルールは変わってきます。
ある国の工場から違う国の倉庫へEnd-to-Endでモノを送りたい時、荷主はフォワーダーに輸送の見積り依頼をしますが、それが新規の取引である場合、ファワーダーから料金が提示されるまでに何日も待たされることは良くあることです。
ファワーダーとしても通関で必要とされる書類の確認、週ごとに変わる各船社の料金の確認、着地側現地法人または代理店とのやり取り等をしていると結構な時間がかかってしまうのです。
しかし、これらはデジタルで機械的に対応しようとしてできないことではありません。
各海運会社がデジタル化できれば、フォワーダーに頼んで一番良い便の料金を提示してもらわなくても、直接海運会社に問い合わせれば済むことです。
最近はデジタルフォワーダーという言葉が注目されていますが、見積り依頼とそれに対する回答を海運会社でデジタル化できればフォワーダー自体が要らなくなるのです。
但し、海運会社がPort-to-Port以外の物流手配も自分たちでできればの話しですが。
Maersk LineはDamcoを解散してその業務を自社化し、デジタル化も同時に進めることによって、フォワーダーの中抜きによるサプライチェーンのスリム化を狙っているといえます。
この戦略は、最近CEVA Logisticsを買収した世界4位の海運会社CMA CGMとは真逆の戦略です。
どちらに軍配が上がるか分かりませんが、100年以上の歴史を持つDamcoブランドが消えることには、一抹の寂しさを感じます。
マースクの収益性
海運部門はコロナで絶好調
まずはA.P. Møller – Mærsk A/S全体での直近2年間のセグメント別の業績を見てみましょう。
(Annual Report 2020 | A.P. Møller – Mærsk A/S より抜粋 & 加筆)
Oceanが海運部門、Logistics & Servicesがロジスティクス部門のことです。
EBITDAマージンを計算してみると、次のようになります。
これを見ると、市況が良い時の海運業がいかに利益率が高いかが分かります。
ロジスティクス部門は苦戦
そしてロジスティクス部門もなかなか健闘しています。
同じようにEBITDAマージンを公開しているK+Nのそれが9.4%(2020年)と8.7%(2019年)ですので、いい勝負をしているように見えます。
ところが、その前の2年間も調べてみると、次のように差が開きます。
この頃はまだDamcoブランドでロジスティクス事業を展開していましたが、採算性は良くなかったことが分かります。
この数字は最終利益がなかなかプラスにならずに苦しんでいるCMA CGM傘下のCEVA Logisticsを下回る数字です。
Maersk LineがDamcoを解散したのも、この利益率の低さも大きな要因だったのかもしれません。
Damcoの業務を移管し始めた2019年から利益率が上がり始めているのがリストラの成果なのか、それともコロナ特需なのかは今後明らかになります。
日本では現地法人から支社へ縮小
Maersk Lineは戦後間もない1947年に、早くも東京に日本支社を開設しています。
その後、1981年に現地法人マースク株式会社を設立しています。
また横浜港と神戸港で自社ターミナルを運営し、船社ターミナルとしては国内随一の取り扱い量を誇っていました。
しかし日本株式会社の国際社会におけるプレゼンスが低下するにつれて日本事業を縮小、現地法人も廃止し、2011年からはデンマークのMaersk Line本社の日本支社が日本事業を担っています。