適正在庫を維持するための発注数の決め方をわかりやすく【定期発注方式の場合】
定期発注方式は仕入先が遠くて、調達のための輸送コストが高い場合によく使われます。
例えば毎月月末に発注するような定期発注の場合、その月に発注する量をまとめられるので、それだけ輸送コストを抑えることができますね。
本記事では、このような定期発注方式において適正在庫を維持するにはどのように発注すればよいのかを解説します。
リードタイムが1日の場合の適正在庫計算式
安全在庫とは「需要の変動を吸収するための在庫」でした。
【安全在庫の計算式】標準偏差と安全係数から計算する式をわかりやすく
これは次のようにも捉えることができます。
将来の売上が何個になるのかは、神のみぞ知るところです。
我々がどんなに精巧なソフトウェアを使ったところで、当たるものではありません。
そこで先週一週間の売上が一日平均10個だったら、来週も10個だろうと考えるのが普通です。
でも実際は15個だったり、7個だったりの日があったりします。
このように予想値からずれても欠品にならないように、保険として持っておく在庫とも言うことができます。
これに対して需要予測在庫があり、これは「発注したいと思ってから配達されるまでの期間の需要をまかなう在庫」でした。
この在庫はサイクル在庫とも呼ばれますが、需要予測値を基準に決める在庫ですので、本サイトでは需要予測在庫と呼びます。
先の例を使うと、発注したいと思ってから2日で店に配達されるとすると、1日平均10個x2日分ということで、20個が需要予測在庫になります。
需要予測のやり方にはいろいろなやり方が知られていますが、簡単にはこのように1日の平均需要×リードタイムで大丈夫です。
需要予測システムが別途ある場合には、その値を使います。
そして安全在庫と需要予測在庫を足したものが、在庫の補充目標量となり、今日の在庫量と補充目標量との差を発注すれば、適正在庫を維持できるということになります。
ですので、適正在庫というのは計算して求めるものではなく、常に補充目標量を目指した適正な発注をすることにより達成される在庫量と言うことができます。
簡略化すると下図のようになります。
さて、在庫補充目標量と現在庫の差を発注すれば適正在庫になるわけですが、上記の式はまだ完全ではありません。
リードタイムを1としているからです。
そこで、ここから先はリードタイムが長くても使える式を考えていきます。
リードタイムや発注間隔が長い場合の安全在庫と需要予測在庫
前回の記事で安全在庫の計算式を
安全在庫=標準偏差*安全係数
と紹介しました。
実は、これは在庫補充のための仕入れ発注をいつでもできて、発注すれば翌日に納品されるという恵まれた環境を想定していました。
しかし、実際には2日に1回しか発注できなかったり、発注しても納品まで3日のリードタイムがかかるようなケースも考えられます。
リードタイムが長い場合の安全在庫の計算式
まず、発注はいつでもできるが、納品まで3日のリードタイムがかかるケースを考えてみましょう。
安全在庫とは需要(売上)の変動を吸収するための在庫ですが、どのくらいの期間の需要の変動を吸収すればよいのでしょうか?
それは発注してから3日間ですね。
なぜなら、3日間をこの安全在庫で耐えしのげれば、危なくなったらいつでも発注できるので、次の発注でまた3日分の安全在庫を見込んで発注すればよいからです。
安全在庫=標準偏差*安全係数
の式の中にある標準偏差は、毎日の需要のばらつき度合を表しています。
つまり1日当たりのばらつき度合です。
では3日間のばらつき度合はどのように表すことができるのでしょうか?
答えは一日当たりのばらつき度合の√3倍です。
なぜそうなるのかと言うと、分散の加法性ということが統計的に知られているからです。
【分散の加法性とは?】足し算だけでなく平均値にも応用する方法を解説
つまり分散もデータのばらつき度合を示す変数と言えます。
2つのデータ郡があって、それぞれの分散がaとbだった場合、2つのデータ郡を合体させたデータ郡の分散はa+bになるという定理が分散の加法性です。
具体的な例で見てみましょう。
商品Aの4月一か月間の売上データを下図とします。
そして商品Bのそれを下図とします。
この時、平均と分散(標準偏差の二乗)は次のようになります。
商品A
平均=563、分散=9,148
商品B
平均=910、分散=24,800
従って、2つの商品を併せた分散は
9,148 + 24,800 = 33,948
です。
一方、2つの商品を併せた60個の売上データから分散を計算すると33,547となり、先ほどの33,948とほぼ一致します。
つまり、集合Aの分散を分散A、集合Bの分散を分散Bとすると、集合A+Bの分散は分散A+分散Bになるのです。
ここで、昨日までの毎日の需要の標準偏差をXとします。(分散はX2)
すると、今日の需要の分散もX2と考えるのが妥当ですね。
というか、それ以外になるという予想を立てる理由が見つかりません。
明日の分散はどうでしょうか?
これもX2と考えるしかありません。
同様に、明後日以降の分散も、昨日までのデータから予測するとすれば同じになります。
すると今日、明日、明後日とも分散はX2ですので、3日間の分散は3X2になります。
標準偏差は分散の平方根ですので√3Xです。
つまり、1日の売上の標準偏差がXだと、3日間の標準偏差は√3倍の√3Xになるのです。
これで長いリードタイムの場合の安全在庫の式を導けますね。
リードタイムがN日だとすると、安全在庫は次の式で計算できます。
安全在庫=√N*標準偏差*安全係数
発注サイクルが長い場合の安全在庫の計算式
さて、上で述べてきたリードタイムとは、発注してから納品されるまでの時間です。
一方、発注したいと思ってから実際に発注するまでの時間もあります。
「そんな細かいこと、気にする必要ないんじゃないの?」
と思いますが、そうでもないのです。
なぜなら、在庫が減ってきたと気づいたらいつでも発注できるわけではなく、実際は一日一回とか、場合によっては1週間に一回ということもあるかもしれないからです。
これを発注間隔(発注サイクル)と言います。
まず、一日一回の場合を考えてみましょう。
あまりない話しかもしれませんが、10分前に発注したばかりなのに、今さっき大量に買い占めたお客さんがいたと仮定しましょう。
一日一回の発注しかできない場合は、このような場合でも一日待たないと発注できませんので、発注する時に安全在庫として一日分余分に発注する必要があります。
つまり、先ほどリードタイムN日分を考慮した安全在庫を計算しましたが、これに一日分足してN+1日分の安全在庫にする必要がありますので、
安全在庫=√(N+1)*標準偏差*安全係数
が発注間隔1日の時の安全在庫になります。
ですので、発注間隔がM日(リードタイムはN日)の場合には
安全在庫=√(N+M)*標準偏差*安全係数
となることが容易に想像できるでしょう。
リードタイム、発注サイクルが長い場合の需要予測在庫の計算式
次に同様にリードタイムがN日、発注間隔がM日の場合の需要予測在庫がどのように計算できるかを考えてみましょう。
需要予測在庫とは、「発注したいと思ってから配達されるまでの期間の需要をまかなう在庫」でしたね。
発注してから配達されるまでの期間とはリードタイムN日ですが、発注しようと思うのはもっと前かもしれません。
なぜなら発注間隔がM日と決まっていますので、もしかすると発注してから大量の注文が入って、すぐにでも追加発注したいとしても、M日待たないといけないからです。
従って、発注しようと思ってから実際に発注するまで最大M日間待つ可能性があります。
ですから
需要予測在庫=(N+M)*1日あたりの売上平均
になります。
適正在庫を維持する発注量の計算式
ここまでこれば、適正在庫を維持する発注方法は簡単です。
発注する時に、
在庫補充目標量=安全在庫+需要予測在庫
=√(N+M)*標準偏差*安全係数+(N+M)*1日あたりの売上平均
と現時点の在庫量との差を発注すればよいだけです。
ですので、
適正発注量=√(N+M)*標準偏差*安全係数+(N+M)*1日あたりの売上平均―現在庫量
となります。
これに従って発注をしてやれば、毎日の在庫量は増えたり減ったりしますが、多すぎずに許容欠品率の範囲の欠品に収まるような在庫になります。
そして平均を計算すると、それが適正在庫量ということになるのです。
完全に理解するには適正在庫シミュレーションが一番
ここまで読んでもよく分からないという方、安心して下さい。
管理人も初めはよく分かりませんでした。
具体的に自分で試してみるまでは。
日々の売上データがどのような時に何個くらいの在庫が必要なのか?
リードタイムを1日から2日に変えると必要な在庫はどれくらい増えるのか?
発注間隔を2日から1週間にかえると必要な在庫はどのくらい変わるのか?
日々の在庫はどのように推移するのか?
等を具体的な数字で試してみれば、なるほど!となります。
そのためにエクセルでシミュレーションソフトを作る方法を、こちらで紹介しています。
【無料サンプル付き】適正在庫シミュレーションをExcelで簡単に作る方法
「えっ?無料サンプルも付いてるの?」
そうなのです。
記事を読んでも作り方がよく分からなかったという時のために、エクセルで作った適正在庫シミュレーションソフトを無料でダウンロードできるようになっています。
ロジギークは太っ腹ですね。
とにかく、このシミュレーションソフトで適正在庫がどのように決まるのかを体験するのが一番の近道ですよ。