間欠需要を正規分布になるようにして在庫理論を使えるようにするための工夫

2024年5月19日

安全在庫理論では、需要が正規分布に従うことを仮定しています。

しかし、これは個々の消費者の需要が正規分布に従うということではありません。

多くの消費者の需要を1日単位でまとめた合計需要のことを言っています。

であれば中心極限定理によって、いつでもこの仮定が成り立つことを前回の記事で解説しました。

消費の合計である需要は正規分布になることを中心極限定理で説明する

 

但し、これには2つの前提条件があります。

これらの前提条件が同時に成り立たない需要分布のことを間欠需要と言います。

しかし、どちらか一方の条件が成り立つように工夫することで正規分布として扱うことができます。

今回は、間欠需要を正規分布として扱うための工夫の仕方を解説します。

 

◆仕事や勉強の息抜きに。。。

正規分布にならないコイン投げの例

普通のコイン投げだと正規分布になる

前回はサイコロ投げをしましたが、今回はコイン投げをします。

10枚のコインを投げて、表が出る確率を実験します。

100回行った場合の確率分布は次のようになります。

 

同様に20枚、50枚、100枚のコインで100回ずつ実験した場合の確率分布は、以下のようになります。

 

枚数が増えるごとに、きれいな正規分布に近づくことが分かります。

また、標準偏差も小さくなって、0.5の確率を精度良く推定できるようになっていることも分かります。

ここまでは、前回のサイコロ投げの実験と同じです。

 

いかさまコイン投げでは正規分布にならない

次に、表が10%くらいの確率しか出ないような、いかさまコインで実験してみましょう。

同じく10枚、20枚、50枚、100枚のコインで100回実験した場合の確率分布は、下記のようになります。

 

10枚や20枚のコインで実験した時には、正規分布にはならないことが分かります。

 

正規分布にならない2つの理由

しかしよく見ると、左側が切れているだけです。

ここで中心極限定理を思い出して下さい。

データ数が多くなると、その合計のばらつきは小さくなりました。

逆に言うとデータ数が少ないとばらつきが大きくなるわけで、10枚や20枚しか投げないとデータが少なすぎてばらつきが大きくなります。

そのため、グラフの左側の裾がゼロにかかってしまい、ゼロから先はカットされてしまいます。

だから左側が切れてしまうのです。

 

一方、ばらつきが大きくても、グラフが右側に寄っていればグラフの裾がゼロにかかることはありません。

つまり、表が出る確率が0.5の普通のコインであれば、試行回数が少なくてもグラフの裾がゼロにかかりません。

 

これらのことから、正規分布にならない理由は次の2つだということが分かります。

  1. 発生確率が小さすぎる
  2. 試行回数が少なすぎる

 

正規分布にならない間欠需要

あるスーパーの消費者を100人集めてきて、毎日それぞれ1枚のコインを投げてもらうとしましょう。

そして、表が出たらその日は商品Aを購入、裏が出たら購入しないこととします。

するとその日のスーパーでの購入数は、コイン投げで表が出た数に等しくなります。

 

普通のコインであれば、商品Aの需要は毎日平均50個で、次のような分布になります。

 

表が10%しか出ないようないかさまコインであれば、商品Aの需要は毎日平均10個で、次のような分布になります。

 

どちらも、きれいな正規分布になっています。

しかし、これは相当楽観的な見立てです。

すべての消費者が半々の確率で買ってくれる商品なんて、滅多にないでしょう。

10%でも多いくらいです。

 

実際には、もっと消費者が多く、購入確率は低いでしょう。

前提を変えてみましょう。

消費者1000人、購入確率1%の場合は次のようになります。

 

1日平均10個くらい買われる商品の場合は、このように正規分布になります。

しかし、2日に1個くらいしか買われない商品だと、どうでしょう。

消費者1000人、購入確率0.05%の場合は次のようになります。

 

横軸が100個でなく、10個になってることに注意して下さい。

これくらい拡大しても、全く正規分布にはなりません。

数日に1個売れるか売れないかという商品では、いくら消費者の数が多くでも正規分布にはならないのです。

このような需要を間欠需要と言います。

 

正規分布の需要にするための工夫

このような間欠需要の場合は、1日単位の需要で見るのではなく、1週間単位や10日単位などで需要をまとめないと、中心極限定理をもってしても正規分布にはなりません。

滅多に起こらない確率分布を表すポアソン分布で近似すれば良いのではという考え方もありますが、正規分布になるくらいまで需要をまとめる日数を増やして対応する方が確実です。

 

まとめ

一人ひとりの消費者の需要が正規分布でなくても、すべての消費者の需要を1日単位でまとめれば、中心極限定理により正規分布になります。

しかし、間欠需要の商品については1日単位の需要は正規分布になりません。

その場合は、需要をまとめる日数を増やして連続需要にするのがお薦めです。

 

2~3日に1度の間欠需要でも、1週間単位にまとめれば連続需要になるでしょう。

場合によっては、もっと長い期間でまとめる必要があるかもしれません。

中心極限定理が使えるレベルになるまで、需要をまとめるようにしましょう。