安全在庫式のリードタイムに平方根が付くのはなぜ?【誰もが一度は疑問に思う】

2023年10月7日

安全在庫はリードタイムの平方根に比例する

安全在庫の計算式によると、安全在庫量はリードタイムに比例するのではなく、リードタイムの平方根に比例して増えます。

安全在庫=√(N+M)*標準偏差*安全係数

N:仕入れリードタイム(日)

M:仕入れ発注間隔(日)

>> 【適正在庫の計算式】に込められた意味をわかりやすい言葉を使って徹底解説!

 

でも、なぜ平方根が付くのか疑問に思っている人も多いのではないでしょうか?

平方根が付くと安全在庫は少なくなりますので、発注担当者としても、

「これで本当に足りるのかなあ」

と不安になりますよね。

その不安を取り除きましょう。

 

標準偏差は「明日の需要予測誤差」を表す

ここでは説明を簡単にするため、当面、仕入れリードタイムNと仕入れ発注間隔Mを併せてリードタイムと呼ぶことにします。

前回記事で標準偏差はデータのばらつきを表すことを解説しました。

標準偏差がばらつきを表すのに丁度いい理由をわかりやすく解説します。

 

安全在庫の式の中では、需要のばらつきを表していることになります。

需要のばらつきとは、もっと嚙み砕くと明日の需要予測をした場合の予測誤差ということです。

従って安全在庫の式は次のように言い換えることができます。

 

安全在庫=√(N+M)*標準偏差*安全係数

√リードタイム×明日の需要予測誤差×係数

 

次の商品Aのように今日までの需要データのばらつきがあまり大きくないのなら、明日の需要予測はそれほど難しくありませんので、予測誤差は小さくなります。

一方、次の商品Bのようにばらつきが大きいと予測が難しいため、予測誤差は大きくなります。

 

予測誤差は足しても意味がない

安全在庫の計算式によるとリードタイムが1日、つまり発注した商品が明日届くのなら、安全在庫は

安全在庫=明日の需要予測誤差×係数

となりますが、リードタイムが7日なら

安全在庫=√7×明日の需要予測誤差×係数

となります。

でも、もし日数7に平方根が付かないと、どういうことになるでしょうか?

 

安全在庫は7倍必要ということになります。

少し多すぎる感じはしないでしょうか?

 

次のような例えで置き換えてみます。

ある若手有望プロ野球選手の今後3年間の本塁打数を20±15本、30±15本、40±15本と予測します。(±後の数値は標準偏差)

この時、±の後の数字をそのまま全部加えたらどうなるでしょう。

3年間の合計本塁打数の予測値は、90±45本になります。

45本から135本の間、少し大雑把すぎますね。

 

先ほどの例で7に平方根を付けないというのは、このような計算をしていることと同じです。

でも、誤差がすべて±15本なのだからといって、すべて打ち消し合って誤差はゼロでしょと考えるのもやりすぎです。

つまり、予測誤差は足しても意味がないのです。

 

予測誤差は二乗してから足すと意味がある

ではどうやって予測誤差を積み上げればよいのでしょうか?

これに答えるためには、統計学で知られた分散の加法性という定理を使います。

分散とは標準偏差の2乗のことです。

通常、標準偏差はσ分散はσ2と表します。

分散の加法性を足し算ではなく平均値に適用する方法を具体例でわかりやすく!

 

2つのデータ郡があり、一方の郡の平均をμ1、分散をσ12、もう一方の郡の平均をμ2、分散をσ22とします。

すると、2つのデータ郡を併せた郡の合計の平均はμ1+μ2に、分散はσ12+σ22になるという定理です。

 

これを使うと、先ほどの例に出てきた本塁打数は次のように予想できます。

合計本塁打数の予測平均値、これは90本で変わりません。

(20 + 30 + 40 = 90)

分散は標準偏差の2乗ですから、合計分散は

152 + 152 + 152 = 675

合計標準偏差は平方根を取って、

√675 = 26

になります。

従って、3年間の合計本塁打数の予測値は90±26本になります。

これなら予想と言えるレベルですね。

 

リードタイムに掛けるのは分散

分散の加法性は安全在庫の計算にも応用できます。

式に出てくる標準偏差は明日の需要予測をした場合の予測誤差でしたね。

では、明後日の需要予測誤差はどうなるでしょうか?

今日までの同じデータを使って予測しますので、明日の需要予測誤差と同じです。

7日後の需要予測誤差も、今日までの同じデータを使って予測しますので同じです。

また需要予測誤差=標準偏差ですから、それを2乗した分散も7日間全部同じになります。

従って分散の加法性より、明日から7日間の需要予測値の分散は、明日の需要予測分散の7倍になります。

つまり、分散をリードタイム倍します。

 

リードタイムの平方根に掛けるのが標準偏差

安全在庫の式は分散でなく標準偏差で表しますので、分散の平方根をとって標準偏差に直します。

すると分散に掛けているリードタイムも平方根になります。

ですので、7日間の需要予測値の標準偏差は明日の需要予測値の標準偏差の√7倍になるのです。

これがリードタイム日数にルートが付く理由です。

 

まとめ

安全在庫=√(N+M)*標準偏差*安全係数

N:仕入れリードタイム(日)

M:仕入れ発注間隔(日)

の式の中の標準偏差は、今日までの需要実績データを使って明日の需要予測をした場合の予測誤差を表します。

ほとんどのケースでは、発注しようと決心してからその商品が納入されるまでの日数が2日以上かかります。

(つまりN+Mは2以上になる)

N+M日かかるとすると、明日からN+M日までの間の需要予測誤差は毎日同じになります。

すると、予測誤差の分散はN+M日分足されていくことになります。

つまり予測誤差の分散はN+M倍されます。

標準偏差は分散の平方根ですので、(N+M)×分散の平方根を取ると√(N+M)×標準偏差となるのです。

 

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