ZARAのサプライチェーンはなぜコストの割高な航空便を使いまくれるのか?

2024年5月18日

Photo by Marian Mirea on Unsplash

日本のアパレル業界で圧倒的な売上高を誇るユニクロですが、ZARAと比較すると半分くらいです。

業界でのポジション | FAST RETAILING CO., LTD. から抜粋

また営業利益率もユニクロの13.8%に対してZARA18.9%と圧倒しています。

そしてその強さの秘訣はサプライチェーンだと言われています。

ZARAはほぼすべての商品をスペインにある4つの物流センターから全世界の店舗に向けて航空便で送っています。

ロジスティクス業界の常識では航空便で送って割に合うのは半導体医薬品など小さくて製品価格が高い貨物だけだと言われています。

なぜZARAは決して価格の高くないアパレル商品を扱っていながら航空便を使いまくれるのでしょうか?

以下、その合理性について考察します。

 

◆仕事や勉強の息抜きに。。。

ZARAのサプライチェーンの特徴

一言で表すなら、その特徴は超高速サプライチェーンです。

既存商品のデザイン変更にかかる日数

ZARA・・・2週間

他社・・・2-3か月

在庫回転率

ZARA・・・年間12回転

他社・・・年間3-4回転

 

そしてその結果、

定価販売率

ZARA・・・85%

他社・・・60%

商品廃棄率

ZARA・・・10%

他社・・・20%

というようにマークダウン率廃棄率の低さにつながっています。

後段で触れるように、ZARAはスペインにある4つの物流センターから航空便で商品を全世界の店舗に供給しています。

他社の大部分は船便で供給するところを、割高な航空便を使っても利益率が圧倒的に高い理由がここにあります。

 

新商品の生産リードタイムは1か月

では他社も航空便を使えばZARAのようになれるかというと、そんなことはありません。

何か月も前の需要予測に基づいて作りだめした在庫を航空便で早く送っても、元の在庫が見込み違いであればマークダウン率や廃棄率は下がらないからです。

これを下げるためには需要予測という賭けを極力回避しなければなりません。

いくらAIを使って高価な需要予測システムを導入したところで、何千種類もある商品アイテムの需要を単品単位で的中させるのは至難の業だからです。

 

そのためにZARAが取っている戦略が生産リードタイムの短縮化です。

通常半年くらいかかるデザインから商用生産までを1か月で行っています。

そのしかけは、ZARAのスペイン本社にある“The Cube”にあります。

46万平米の広大なスペースにデザインや生産統括機能、物流機能等が集められていて、その半径16km以内にZARAの直営工場が点在しています。

そしてThe Cubeと各直営工場は地下にあるモノレールで連結されていて、商品や原材料が高速で行き来しています。

このような環境があるため、街中のハイセンスな若者が集まる場で見かけた流行りをいち早くThe Cubeにいるデザイナーに知らせて、1か月後には市場に投入するという離れ業が可能になります。

需要予測というギャンブルに賭けずに自分の目で見た現実を元に生産できるため、無駄な在庫を減らすことができます。

 

ZARAの物流ネットワークの特徴

このようにZARAの在庫は早く店頭に並べれば売れることがほぼ分かっていますが、やはり地域によって需要の強弱はあります。

それを調整するのが需給調整機能です。

日々の売上は店舗にある端末から本社にデータ共有されますが、週に2回の発注量を決める権限は基本的にローカル事情に詳しい店舗側にあります。

本社では微調整のみを行います。

このやり方は他社でも多く採用されています。

 

そして各店舗から発注された商品は原則3日以内に納品されます。

これも他社と比べると同等か、むしろ遅いくらいでしょう。

 

しかし大きな違いは商品を供給する物流センターの位置です。

多くの場合は顧客の納品リードタイムの要求を満たすために顧客の近くに置きます。

ZARAやユニクロのようなSPAでは自社店舗なので顧客ではないのですが、それでも遠くから比較的少量を商品供給するのは割に合わないということで、店舗の近くに物流センターを置こうとします。

狭い日本の中でさえ、2か所以上の物流センターを置くのが一般的です。

 

ところがZARAではスペインにある4ヶ所の大型物流センターから全世界の店舗に向けて商品供給しています。

しかも船便の5倍くらい高い航空便を使って。

これは合理的なのでしょうか?

 

なぜ割高な航空便を使うのか?

航空便を使うしかないから

物流業界では航空便は高いので緊急時にしか使わないという考え方が一般的です。

つまり航空便は時間を金で買いたい時にだけ使うという考え方です。

ZARAが航空便を使う理由の1つ目はこれです。

折角、市場のトレンドに合う商品を1か月で生産したのに、これを船便で1か月以上もかけて運んでいたのでは無意味になってしまいます。

ではエリアごと、例えば日本に物流センターを置いて、そこから日本の各店舗に商品供給するようにしたらどうなるでしょうか?

確かに店舗への供給リードタイムは2日くらいにできるでしょうが、日本の物流センターに船便を使ってスペインから供給していたら同じく市場投入が1か月以上遅れてしまいます。

ZARAでは生産リードタイムが1か月のトレンド商品はすべてスペインで生産しているのです。

(残りのうち半分は欧州生産、トレンド商品ではない定番品と呼ばれるものはアフリカやアジアで生産)

結局、トレンド商品を全世界にタイムリーに供給するためには航空便を使うしかないのです。

 

アパレル商品の比重が飛行機の経済性にベストマッチだから

2つ目の理由は、実はアパレル商品の比重は飛行機が経済的に運べるちょうど良い重さであることです。

飛行機には貨物を積めるスペースが決まっていて、そこに積める重量にも制限があります。

下の表はその一例ですが、積載重量を積載容積で割ると大体150kg/m3になります。

これはカートンに梱包したアパレル商品と同じくらいです。

これより比重が重ければ重量制限に引っかかってスペースが余ってしまい、逆に比重が軽ければ容積重量に引っかかって重量を制限まで積めなくなります。

いずれにしても貨物スペースを有効に使えないのですが、アパレル商品はそうならないちょうど良い比重なのです。

容積重量の換算方法が違うのはなぜ?トラック/航空/海上貨物別に解説

 

マークダウン率と廃棄率が低いから

そして最後の理由は言わずもがな、マークダウン率と廃棄率の低さです。

先述のようにZARAの定価販売率は85%、対して他社平均は60%です。

他社が40%の商品を半額で売っているところを、ZARAは15%しか半額で売っていないとすると、売上高で

(40%-15%) x 50% = 12.5%

の差、利益では更に大きな差がつきます。

 

またZARAの廃棄率は10%で他社は20%だとすると、ここでも売上高で10%の差、利益では更に大きな差がつきます。

 

これに対して航空便は高いと言っても、せいぜい売上高の10%しかない物流費のうちの一部なので大したことはなく、上記のメリットで十分に元が取れるはずです。

ただし、これらのメリットは1か月という超短期の生産リードタイムとの合わせ技で初めて実現できるものです。

生産リードタイムをそのままにZARAの物流ネットワークだけ真似しても、コストだけが増えて利益が減るのは明らかでしょう。