【とても大事な裏面約款!】国際貿易における売買契約のチェックポイント
- 1. とても大事な契約書の裏面約款
- 2. 表面約款は見せ球
- 3. 裏面約款のチェックポイント
- 3.1. Shipment(船積)
- 3.2. Charges(諸経費)
- 3.3. No Adjustment(調整禁止)
- 3.4. Inspection and Claim(検査とクレーム)
- 3.5. Warranty(保証)
- 3.6. Force Majeure(不可抗力)
- 3.7. Default(債務不履行)
- 3.8. Trade Terms(貿易条件)
- 3.9. No Assignment(譲渡禁止)
- 3.10. Arbitration(仲裁)
- 3.11. Product Liability(製造物責任)
- 3.12. Entire Agreement(完全合意)
- 3.13. Governing Law(準拠法)
とても大事な契約書の裏面約款
海外企業との貿易では契約がすべてです。
万事順調に物事が進めば何の問題もありませんが、国際貿易では想定外の出来事がよく起こります。
日本の会社同士であれば、お互い日本人としての常識の範囲内で善処しようとしますが、海外では契約書に明記していないと確実に揉めます。
そのため口頭で取引がまとまりそうになると、海外の会社は即座に契約書のドラフトを出してきます。
海外では自社に都合の良い内容をさりげなく盛り込んだ契約書のドラフトを早く出したもん勝ちです。
それまでの経験から、よく揉め事が起こりそうな点を網羅して、自社が損しないような条項をさりげなく入れ込んできます。
しかも、それは契約書の裏面に書いてあることが多く、契約書に慣れていない日本人はあまり気にしません。
日本でも裏面約款が入っている契約書は沢山ありますが、ほとんど読まないと思います。
ところが、国際貿易ではこれで損してしまうことが少なくありません。
契約前には自社の方が強い立場であっても、一旦契約書にサインするとイーブンになります。
契約書にサインする前の自社が強く出られる時にチェックしておかないと、後でえらい目に逢います。
間違ってもL/C決済で銀行を挟んでいるから安心などと思ってはいけません。
銀行は信用状統一規則に則り粛々と決済業務をこなすだけで、決済以外で問題が生じても何も助けてくれません。(当然ですが)
そこで裏面約款のチェックポイントについてまとめてみました。
表面約款は見せ球
裏面約款に行く前に、まずは表面約款を見てみましょう。
売り手がドラフトを作る場合はSales Contract、買い手が作る場合はPurchase Contractになります。
ここには取引ごとに変わってくる内容を記載するため、売買内容や貿易条件等が書かれています。
具体的には下記のような項目です。
- 商品名/仕様
- 品質条件
- 価格/トレードタームズ(CIF Shanghai等)
- 数量
- 輸送条件(積み地/揚げ地/混載可否/積替可否/船積期限等)
- 梱包条件
- 保険条件
- 支払い条件
- 必要書類 等
これらは確かに大事な項目で当然チェックすべきものですが、事前打ち合わせの内容が反映されるため、議論になるポイントは少ないと思います。
「おっ、この会社、結構誠実的じゃないか」
とお人好しの日本人は思ってしまいます。
ところが、腹黒さは裏面に現われます。
裏面約款のチェックポイント
ここには取引毎で変わらないポリシーが書いてあるので、活字で当たり前のように書いてあります。
しかし、その会社が今まで遭遇したトラブルを教訓に、次からは自分たちが絶対に損しないような予防策が盛り込まれています。
いわば、その会社の暗黙知が凝縮されていると言ってもいいほど重要なものです。
とはいえ、裏面約款に記載する項目は一般条項(General Terms)と呼ばれ大体決まっています。
ここでは私たち日本企業が買い手の立場なら、裏面約款にどういう項目を記載すべきかという視点で見ていきます。
Shipment(船積)
買い手にとり、納期を守ってもらうことは大変重要です。
船積み後の遅れは仕方がないとして、船積日は守ってもらいたいものです。
これを担保するために、売り手が船積日を守れなかった場合には、買い手から売り手に書面で通知することにより契約を即刻終了できるように記載しておくべきです。
実際には多少の遅れは見越して船積日を設定しますので後日便に載せることになると思いますが、その場合でも買い手にいかなる不利益も降りかからないようにしておくべきです。
中には売り手にも同情したくなるような理由で遅れることもあるかもしれません。
しかし、買い手のミスでない限り売り手がその責任を負うように書いておくことで、納期遅れの抑止効果になります。
また、船積み後は速やかに船積み情報を買い手に連絡させますが、その内容もきちんと示しておくべきでしょう。
情報不足により、海上保険の手配や輸入通関が遅れて買い手が不利益を被るリスクがありますので。
Charges(諸経費)
関税は輸入通関時に納付するものですが、中国やロジア等の一部の国では貨物の種類によっては輸出関税が課される場合があります。
その他、無知もしくは政策変更により、積み地で想定外の諸経費が発生する場合があります。
それらの積み地での諸費用は、FOBやCIF等の通常のトレードタームの場合は売り手の負担です。
しかし、これを買い手に負担させようとする売り手もいます。
船が揚げ地に着くとアライバルノーティスが船社やフォワーダーから送られてきますが、その中には揚げ地で請求されるべき諸費用が含まれています。
しかし中には積み地で請求されるべき費用が載っている場合があります。
中国路線でよく見るSystem Chargeはその一例で、これは中国側の荷主が支払わないためフォワーダーが仕方なく揚げ地で請求している費用です。
このようなことをさせないために、積み地において発生するすべての租税、輸出関税、公課、銀行諸掛り等のいかなる費用も売り手が負担すべしことを謳っておきます。
なお、これはトレードタームに依存することで、EXW等の元々買い手が積み地での費用を含むすべての物流費用を負担する契約になっている場合は、この限りではありません。
No Adjustment(調整禁止)
最近はコロナの影響で、様々なコモディティやエネルギーの相場価格が上がっています。
また人件費もインフレの影響で上がるかもしれません。
契約後にこれらを理由に価格を調整されないように、予め予防線を張っておきます。
Inspection and Claim(検査とクレーム)
買い手は貨物到着後に自らの費用で貨物を検査しますが、貨物到着後何日以内と明記しておくべきです。
これは長く日数を設定するほど買い手は有利ですが、常識的な日数を設定しましょう。
但し、品質に問題を発見した場合には書面でクレーム通知をした上で、賠償金支払いを請求する権利を有することを明記しておきます。
Warranty(保証)
品質条件は表面約款にも書きますが、その他に図面やサンプル等、それまでに提出された情報と合致していなければならないことを明記します。
もし買い手が疑義ある場合には、買い手が指定する独立検査機関により検査し、不良であれば協議の上、買い手は賠償しなくてはならない旨も記載しておきます。
Force Majeure(不可抗力)
天災、戦争または武力衝突等の不可抗力による免責を謳う条項で、どちらかというと売り手を保護するためのものですが、買い手もそれにより貨物の引き取りをできなくなる恐れもありますので入れておきます。
Default(債務不履行)
会社が債務危機に陥るのは、海外ではよくあることです。
もし売り手が破産状態に陥り本契約のいかなる条項でも履行できなくなったり、契約違反があった場合、買い手は書面により
- 本契約もしくは売り手とのいかなる他の契約も停止、もしくは一時中止することができる
- 貨物の船積、もしくは引き取りを拒否することができる
- 貨物の引き取り後の場合には、買い手が妥当と考える方法で貨物を処分し、その代金をもって売り手の債務不履行によってもたらされた買い手及び買い手の顧客の損害すべてを弁済することができる
旨を記載しておきます。
Trade Terms(貿易条件)
所謂インコタームズは国際商業会議所(ICC)が制定した貿易取引条件とその解釈に関する国際規則ですが、10年ごとに実態に合わせて更新されています。
表面約款に使用するインコタームズは書かれていますが、解釈の食い違いを防ぐために最新版である2020年版に従うことを明記しておきます。
No Assignment(譲渡禁止)
売り手が信用できると思って契約したので、その権利や義務を買い手の書面による承諾なしに移転または譲渡することを禁じておきます。
Arbitration(仲裁)
文化の違いから、海外の企業とは些細な行き違いから紛争になってしまうことがよくあります。
そのような場合に備え、できれば日本の日本商事仲裁協会(JCAA:Japan Commercial Arbitration Association)を仲裁機関として指定しておきたいものです。
Product Liability(製造物責任)
買い手及び買い手の顧客すべてに対して、貨物の欠陥あるいは関連したすべての損失(間接的も含む)を売り手の負担で補償しなければいけないことを謳っておきます。
Entire Agreement(完全合意)
本契約が唯一無二のもので、以前に合意書があったとしても無効であることを謳っておきます。
Governing Law(準拠法)
日本国の日本法を準拠法としておきたいところです。
以上ですが、中でも紛糾し易いのは仲裁機関と準拠法を決める時かもしれません。
これらの交渉については、買い手の立場が強い交渉初期の段階でしておくのが得策です。