リードタイムを短くしても在庫削減はできない!|シミュレーションで証明します

2024年5月19日

仕入れ先が国内に在庫を持っていれば、発注してから納品されるまでのリードタイムは短くてすみます。

しかし、仕入れ先が受注生産だったり、海外から船便で仕入れる場合はリードタイムが長くなります。

リードタイムが長くなれば在庫が増えそうです。

では、リードタイムが1日延びるとどのくらい在庫量に影響するのでしょうか?

 

在庫補充目標量=安全在庫+需要予測在庫

=√(N+M)*標準偏差*安全係数+(N+M)*1日あたりの平均需要

N:発注してから在庫が補充されるまでのリードタイム(日)

M:発注間隔(日)

適正在庫を維持するための発注数の決め方をわかりやすく【定期発注方式の場合】

 

リードタイムが長くなると、在庫補充目標量がどれくらい増えるのかはこの式から分かります。

しかし、在庫補充目標量とは発注量を決める時に参考にする値に過ぎませんので、在庫量がどれくらい変わるかまでは分かりません。

それを知るためには、この方法で発注した時の在庫量をシミュレーションして在庫の平均値を計算する必要があります。

これを前回エクセルマクロで作成した在庫シミュレーションソフトで計算してみます

【VBAサンプル付き】適正在庫シミュレーションをエクセルマクロで自動化(後編)

結果は意外なことに。。。

 

◆仕事や勉強の息抜きに。。。

シミュレーションではリードタイムが長くなっても在庫は増えない!

ここでは例として、発注間隔を7日に固定して、リードタイムを1日、7日、14日に変えて倉庫内在庫量の推移をシミュレーションしてみます。

需要データは下図のデータを使います。

1月1日から2月28日までのデータを使って安全在庫と需要予測在庫を計算し、3月1日から4月30日のデータで在庫シミュレーションを行います。

それぞれのリードタイムについて在庫推移をシミュレーションすると、次のようになります。

この結果を見ると、リードタイムが大きく変わっている割には、平均在庫数はほとんど増えていないように見えます。

なぜなのでしょうか?

 

リードタイムが長くなっても在庫が増えない理由

リードタイムが1日の場合の在庫推移

ここで問題を簡単にするため、需要のばらつきがない理想的な状況を想定してみましょう。

1日に安定的に2個ずつ売れるとし、発注間隔は7日と仮定します。

この場合、リードタイムが1日としますと、残り在庫数が2個になった時点で発注すれば在庫切れを起こしませんね。

でも7日に1回しか発注できません。

ですから7日間発注できなくても問題ないように、発注日には14個発注しないといけませんね。

つまり次のような在庫推移になります。

7日に発注すると同時に未入荷在庫となり、8日に倉庫に入荷され倉庫内在庫になります。

 

リードタイムが7日の場合の在庫推移

次にリードタイムが7日になった場合を考えます。

今度は発注しても倉庫に入荷されるのが7日後ですから、在庫切れを起こす8日の7日前に14個を発注しておく必要があります。

つまり次のようになります。

1日に14個を発注しますが、1~7日は未入荷在庫で、8日に倉庫内在庫になります。

それと同時に、15日に在庫切れを起こさないように次回の発注をかけますので、8~14日まで14個の未入荷在庫が再びできます。

つまり毎日14個の未入荷在庫があることになります。

 

リードタイムが14日の場合の在庫推移

次にリードタイムが14日になるとどうでしょうか?

発注しても13日間は倉庫に届きませんので、次々回の発注までに必要となる14個を2週間前に発注する必要がありますね。

そして次回の発注時(7日後)にも、その14日後に在庫が補充されるように14個を発注する必要があります。

つまり毎回の発注時に14個を発注し、常に14×2個の未入荷在庫がある状態になりますので、次のような在庫推移になります。

リードタイムの影響をうけるのは未入荷在庫だけ

これら3つのグラフを見比べると、倉庫内在庫(青色)はリードタイムが長くなっても変わらないことに気づきます。

増えているのは未入荷在庫だけなのです。

しかもリードタイムにほぼ比例して増えています。

先ほどのシミュレーションデータで調べてみると次のようになります。

倉庫内在庫はほとんど増えませんが、未入荷在庫は大幅に増えることが分かります。

 

なぜリードタイム削減が叫ばれるのか?

リードタイムが長くなっても倉庫内在庫がほとんど増えないのは少し意外な感じがしますが、その分、未入荷在庫が増えるわけです。

これは考えてみれば当たり前のことで、需要のばらつきが全くない理想状況の時には、倉庫内在庫は全く増えず、前倒しで発注する分はすべて未入荷在庫として増えることになります。

ですので未入荷在庫はリードタイムにほぼ比例して増えます。

現実の世界では需要はばらつきますので、倉庫内在庫も少しは増えますが、増え方は僅かです。

 

ではなぜ「リードタイムを削減して在庫削減をしよう」ということが盛んに叫ばれるのでしょうか?

リードタイムが倉庫在庫に与える影響が限定的であれば、リードタイムを削減しても倉庫在庫はほとんど削減されません。

従って倉庫コストはほとんど変わりません。

未入荷在庫は減りますが、納品するまで商品代金を支払わないのであれば、キャッシュフローへの影響もありません。

リードタイムを短縮しても何も変わらないように思えます。

良くなることと言えば、買取責任のある未入荷在庫が減るためリスクが減ることと、需要予測の精度が上がることくらいでしょうか。

流行り廃りの早い、陳腐化コストが大きい商品を扱う会社に限り、リードタイム削減の効果は大きいと言えるのではないでしょうか。