容積勝ち貨物と重量勝ち貨物、混載して物流コスト削減になる条件を一次不等式で解く
綿のように容積が嵩張る貨物はトラックに積むといっぱいになりますが、トラックの積載重量制限には遠く届かず勿体ないことになります。
逆に水のように重たい貨物をトラックに積もうとすると、重量制限に引っかかるため半分くらいしか積めません。
このような貨物は一緒に混載すれば良さそうです。
混載してコストダウンになる条件は何でしょうか?
今回は、この条件を数学で解いていきます。
中学一年生で習った一次方程式/不等式を覚えていれば大丈夫です。
トラックの積載率向上は物流コスト削減の肝
輸送コストは物流コストの中で、最も多くの割合を占めるコストです。
日本の場合、約60%と言われています。
国土の広い米国や中国ではもっと高くなるでしょう。
にもかかわらず、輸送コストには大きなムダが潜んでいます。
一番身近なトラック輸送を例にとりますと、日本の積載率の平均は約40%と言われています。
トラックの荷台に40%しか積まれておらず、60%は空気を運んでいるようなものです。
この積載率が仮に企業努力で60%になったとすると、1.5倍の量の貨物を同じ料金で運べるようになりますので、単純に言って日本の輸送コストは2/3になることになります。
日本の物流コスト全体で言っても、約20%の削減になるということです。
容積勝ちと重量勝ちの混載で積載率を上げる
このようにトラック積載率向上は物流コスト削減に高い効果がありますが、よく知られたスキームとして容積勝ち貨物と重量勝ち貨物の混載があります。
トラックの荷台スペースには限りがありますし(容積制限がある)、荷台に載せられる重量にも制限があります。
両方の制限が一緒に満たされれば最も効率の良いトラックの使い方ですが、通常はどちらかの制限が先に引っかかってしまい、それ以上は積めなくなってしまいます。
例えば、荷台の容積制限が50m3、重量制限が25tのトラックに、ペットボトル入りの水を積む場合を考えてみましょう。
水は1リットルで1kgですので、換算すると比重は1t/m3になります。
これを荷台にいっぱいに積むと、50m3積むことになりますので、重量は50tとなってしまい、重量制限の25tを2倍も超えてしまいます。
つまり水は25tしか積めず、荷台の半分は空気を運ぶことになってしまいます。
これに対して、スナック菓子を積む場合を考えてみましょう。
スナック菓子は軽いので、比重は水の1/4の250kg/m3とします。
すると、この貨物を荷台いっぱいに積むことはできますが、重量が12.5tしかないため重量制限の半分しか使っていないことになり、これも勿体ないことになります。
そこで、これら2種類の商品を一緒に積めば効率が良さそうだと想像できます。
それでは、どんな割合で混載すれば一番効率的でしょうか?
最適な混載比率は一次方程式で解ける
水の比重は1t/m3、スナック菓子の比重は250kg/m3でした。
それではトラックに積む貨物は、比重をいくらの前提としているのでしょうか?
容積制限が50m3、重量制限が25tのトラックであれば、500kg/m3の貨物を積むことを前提としています。
この比重の貨物であれば、容積も重量もムダなく100%有効に使えます。
ここで、水をxm3トラックに積むとしましょう。
トラックの積載容量は50m3ですので、スナック菓子は(50-x)m3積めば100%積載になりますね。
それでは水の重量はいくらになるでしょうか?
重量=比重 * 容積ですから
xt、もしくは1,000xkgとなります。
同様にスナック菓子の重量は
250(50-X)kgとなります。
これらを足したものが重量制限の25t(25、000kg)になればいいので、
1,000x + 250(50-x) = 25,000
の式が成り立ちます。
これをxについて解くと、16.7m3となります。
つまり、水を16.7m3、スナック菓子を33.3m3積めば、合計容積=50m3かつ、合計重量=25tとなり、全くムダなくトラックを使えることになります。
これで水とスナック菓子を1:3の割合で混載すれば、トラックを最も有効に使えることが分かりました。
それでは混載することにより、実際どのくらい積載率が上がるのでしょうか?
水とスナック菓子を別々のトラックで運んだ場合の積載率は、下図のように2台併せて75%になります。
混載する時には、水とスナック菓子を1:3の割合で積みますので、下図のようになります。
つまり積載率75%だったのが100%になりますので、輸送コストは25%削減されて75%になるのです。
物流コスト削減になる条件は一次不等式で解ける
しかし、水とスナック菓子の工場が離れていれば、混載するための追加トラックコストがかかってしまいますので、いつもコストダウンになるわけではなさそうです。
ここでは、スナック菓子工場から水工場までスナック菓子だけを一旦輸送した後、水工場で混載して顧客まで輸送することを考えます。
また、スナック菓子工場から水工場までの輸送費をトラック一台当たり1万円とします。
そして、この1万円の追加コストを考慮しても、混載した方が安くなる条件は何かを考えます。
簡単のため、顧客への輸送コストは水工場からもスナック工場からも常に同じでyとしましょう。
そうすると、混載しないで水工場、スナック工場それぞれから別々にトラック1台ずつ輸送するのにかかるコストは2yとなります。
混載する場合は顧客までの輸送コストが25%削減されますが、スナック工場から水工場に輸送するための追加輸送コスト1万円がかかりますので、
2y * (1-0.25) + 10,000
となります。
混載する方が安くなる条件を求めたいので、
2y * (1-0.25) + 10,000 < 2y
を解けば良いことになります。
これを解くと
y > 20,000
つまり、両工場から顧客までの距離が輸送コストにして2万円より離れていれば、混載する方がコストダウンになることが分かります。
実務では、水工場で混載する時に発生する追加コスト等も考慮する必要はあります。
しかし、低く見積もっても、これにより大体のあたりを付けられることはお分かりになると思います。
まとめ
中学生の頃は、一次方程式など実社会では役に立たないだろうと思っていた方も少なくないと思います。
私もそうでした。
しかし、物流業界に入ってモノの動きを数字でモデル化することを覚えてからは、方程式で合理的に解ける課題が少なくないことに気づきました。
この例では問題を単純化していましたが、それでも本質は抑えていますので、十分に実践で役に立ちます。
しかし、今回は2種類の貨物の混載条件を求めましたが、貨物の種類が増えてくると単純な一次方程式では難しくなります。
そのような場合には、オペレーションズリサーチで知られている線形計画法を使うことで数理的に解くことができます。
このやり方を使えば、理論上は貨物が何種類あっても積載率を最大化するような組み合わせを求めることができます。
興味のある方はこちらも参照してみて下さい。
【線形計画法②】シンプレックス法でトラックの積載率が最大になる条件を求めてみた