ASEANでクロスボーダートラックを使ってメリットがあるケースはこれだ!

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クロスボーダートラックの利用は期待ほど伸びていない

2015年末にASEAN経済共同体が発足する前後は、ASEAN域内の貿易が活性化されることを見越してベトナム-タイ-ミャンマーを結ぶ東西経済回廊や、ベトナム-カンボジア-タイを結ぶ南部経済回廊がもてはやされました。

そしてこの2つの回廊を使ったクロスボーダートラックサービスが多くの物流会社から提案され、テレビや雑誌などのマスコミで盛んに取り上げられました。

しかしそれも今や昔の話しで、クロスボーダートラックサービスの活用は、国境に位置する工場以外にはほとんど進んでいません。

今回はその理由を数学的に読み解いてみます。

 

ASEAN経済共同体の幻想

ASEAN経済共同体とは関税撤廃や貿易手続きの簡略化など物品の貿易の自由化を目指すだけでなく、人の往来やサービス貿易の自由化も目指す協定で、2015年12月31日に発足しました。

この中で物流が関係する物品貿易の自由化については、他の2つに比べ表向きは順調に進んでいると言えます。

ASEANの中でも後進国と言われるCLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)の関税は少し遅れて2018年に撤廃されました。

特別税という名前を変えた実質関税としか思えない税金が残っていますが、一応は撤廃されたと言えます。

 

しかしこれによってASEANの国では関税なしで自由に輸出入ができるようになったと考えるのは早計です。

まず関税がなくなるのはASEAN産だけです。

日本から輸入する場合は勿論対象外です。

ASEANの別の国から輸入する場合も、その商品がASEANの国で製造されたモノであることを証明する必要があります。

この証明書を原産地証明書と言いますが、これに少しでも間違いがあると税関に却下されて、通常通りの関税を支払うはめになります。

こういった貿易書類のやり取りの煩雑さはまだ解消されているとは言えません。

 

しかしながら、そういった課題はそのうち解消されることを見込んで、陸路での貿易が活発になるはずだとの読みで東西経済回廊や南部経済回廊がもてはやされるようになったのです。

【ASEAN共同体発足から1年】東西経済回廊の要衝「第2メコン橋」、陸の連結担い10年より引用

 

物流会社もサービス開発を競ったものの。。。

物流会社各社も先行者利益を得ようと競ってクロスボーダートラックサービスの開発を競いました。

確かにタイバンコクとカンボジアプノンペンは陸路だと1日で運べますが、船便だと直行便でも1週間くらい、シンガポールの経由便だと2週間くらいかかってしまいます。

需要はいくらでもあるように思えます。

また料金的にも、船便よりは高いが航空便より安いという立ち位置ですので、緊急輸送の需要を取り込める余地はあります。

しかし、それから発足から5年以上たった今、ブームは完全に萎んでいます。

なぜでしょうか?

以下、失敗事例を先にご紹介します。

 

クロスボーダートラックを使ってもメリットがないケース

リードタイム短縮による在庫削減をしたいケース

一つ目は、船便からクロスボーダートラックに変えることによるリードタイムの短縮によって、在庫削減効果を狙っているケースです。

以前の記事「リードタイムを短くしても在庫削減はできない!|シミュレーションで証明します

でリードタイムが短くなっても、在庫はほとんど削減できないことを解説しました。

リードタイムを短くしても在庫削減はできない!|シミュレーションで証明します

バンコクからプノンペンに輸入するのに船便で2週間かかっていたところをクロスボーダートラックで1日に短縮しても、プノンペン倉庫の在庫はほとんど減りません。

減るのは、海上輸送途上の売上計上されていない在庫だけです。

 

また別の記事「発注間隔を1日短くすれば、どれだけ在庫削減できるのか?|シミュレーションで徹底解析

では、発注間隔を短くすれば在庫削減できることを解説しました。

在庫削減にはリードタイム削減よりも発注間隔の短縮化が重要な理由

 

船便で輸入するにしてもトラック便で輸入するにしても、カンボジア国内で売れる数量は変わりません

ということは、発注間隔は変わらないはずです。

なぜなら、同じ40フィートコンンテナを使うため、1度に輸入する量は同じだからです。

つまりこの場合、発注間隔は同じでリードタイムだけが短縮されるので、在庫はほとんど減らないのです。

 

片荷輸送になっているケース

二つ目は、クロスボーダートラックで輸入したはいいが、そのトラックが帰る時の貨物がないケースです。

この逆に、輸出したはいいが、戻りの貨物がないケースです。

クロスボーダートラックはそれなりの輸送距離になりますので、片荷輸送では輸送効率が著しく悪化します

クロスボーダートラックサービスの対象は、たいていの場合、経済格差の大きな国家間になることが多いです。

(逆に経済格差のないシンガポール-マレーシア間やマレーシア-タイ間には片荷問題はあまり発生しない)

その場合、先進国から途上国への貨物量に対して、逆方向の貨物は極端に少ないことが多く発生します。

 

「片荷輸送は船便でも同じでは?」

と思うかもしれませんが、船便の場合、途上国発着の便は他国のハブ港経由になることが多いため、例えばカンボジアからシンガポールのハブ港へはタイやシンガポールや日本向け等の貨物も混載されるため空ということはないのです。

 

また、元々トラックの輸送効率は船に比べると大きく劣る点も見逃せません。

いくらトラックで運べば船便のようにシンガポールを経由せずにショートカットできると言っても、船の輸送効率には遠く及ばないのです。

それは船は自重の7倍運べるのに対して、トラックは1.8倍しか運べないためです。

どうして輸送は船ばかり – SHIP for Everyoneより抜粋

 

結果、輸送費と通関費込みで比較すると、トラック便は船便の2倍くらい費用がかかってしまいます。

 

クロスボーダートラックを使ってメリットがあるケース

結局、在庫削減にならずに費用だけ多くかかってしまいますので、トラック便を使うことのデメリットはあってもメリットはほとんどないわけです。

ただ全くないというわけではありません。

 

陳腐化コストが大きな貨物を輸入するケース

まず、賞味期限が短い食品を輸入する場合は、1日で運べるクロスボーダートラックは大きな魅力です。

食品、中でもチルド食品の輸送には大きなメリットがあります。

1週間しか賞味期限がない食品にとっては、1日でも長く店頭に置けるメリットは大きいですからね。

また流行り廃りの速いアパレル商品も、陳腐化コストの大きな商品に入るでしょう。

 

生産工程の一部を隣国で行っているメーカー

また、タイにある一部のメーカーは、生産工程の一部を人件費の低いカンボジアに移しています。

これには最終工程をカンボジアに移すパターンだけでなく、中間工程をカンボジアに移しているメーカーもあります。

このようなメーカーでは、中間材をタイ工場からカンボジア工場へ送り、ある程度の加工を施した後、再びタイ工場に返送するということをやっています。

こういう場合には、輸出入のリードタイムが長くなるとそれだけ仕掛かり在庫が増え、全体の生産効率が落ちてしまいますので、1日で運べるクロスボーダートラックは大きな魅力です。

 

また、片荷輸送も自社で解消できます

よく物流会社が仲介となって、他の荷主との共同物流により片荷問題解消を目指すケースがありますが、たいていうまく行きません。

やはり自社専用にコンテナをキープしておいて、そのコンテナが常に流動するように生産計画を立てて運用するくらいのことをしないと、船便とのコスト差を解消することは難しいためです。