【燃料サーチャージ】誤った計算式で契約してしまったトラック会社の窮状

2022年7月31日

海上輸送や航空輸送では当たり前の燃料サーチャージですが、日本の陸上輸送ではまだまだ普及していないようです。

業を煮やした全日本トラック協会は今年1月25日、とうとう国土交通省と連盟で「燃料サーチャージ制の導入」と「標準的な運賃の活用」について、荷主企業約45,000社に対して周知依頼のパンフレットを送付しました。

JTAホームページ 「燃料サーチャージへのご理解をお願いいたします」 から抜粋

 

荷主からすると、

「こっちだって燃料代の増加分を売価に転嫁できなくて困ってんだよ」

ということでしょうが、中小零細が多いトラック業界はそもそも燃料代、車両費、人件費がコストの大部分を占めていて合理化のしようがないんですよね。

ドライバーのなり手がいなくて運びたいものがあっても運べないというトラック危機になってきているのに、そんなことでは本当に誰も運んでくれなくなりますよ。

 

一方、海外ではトラック業界にも燃料サーチャージが普及していることをトラック運送の燃料サーチャージの計算方法で得するツボをこっそり教えます。で紹介しました。

と同時にサーチャージの計算式に問題があることも指摘しました。

燃料代がコストの中で占める割合を過小に見積もっているため、燃料代が下落局面にある時は利益が増えるけれども、逆の局面では利益が減ってしまうという問題です。

この記事を書いたのは2021年の4月で、コロナ禍で暴落した燃料代がコロナ禍前の水準まで戻していた頃でした。

今、この国ではその時から燃料代が50%も上昇しています。

一体どんなことになっているのでしょうか?

現場の窮状をレポートします。

 

A社の燃料サーチャージ計算式の問題点

物流会社A社の燃料サーチャージの計算式は下記の通りです。

わかりやすいように円に換算しています。

 

Q=P*(100-(A-B)*0.3)/100

A:基準となる燃料価格(円/L)

B:先月平均の燃料価格(円/L)

P:基準燃料価格時の運賃(円)

Q:今月の運賃(円)

 

ザックリいうと燃料価格が1円下がることに運賃を0.3%下げ、逆に燃料価格が1円上がるごとに運賃を0.3%上げるということです。

この.3%というのが問題で、本当は燃料代が1円変わるごとに運賃を.45%変わるようにしないと利益が変わってしまうというお話しでした。

詳しくはこちらの記事を参照下さい。

トラック運送の燃料サーチャージの計算方法で得するツボをこっそり教えます。

 

A社の原価構造

このA社が今どうなっているかを書く前に、まずは原価構造がどうなっているかを見ておきます。

A社は自社トラックと傭車を組み合わせた輸送サービスを提供していて、その比率は売上高ベースで約1:3です。

顧客への運賃は上記の燃料サーチャージ式で上下する契約にしています。

また傭車(下請け会社との契約)についても、同じ計算式を使っています。

つまり、燃料代が変わっても粗利益率は変わらないようになっています。

一方で、自社トラックの原価構造は次のようになっています。

 

但し、これは2021年4月時点での原価構造である点に注意です。

燃料代が上がると燃料費は増えますが、その他はほとんど変わりません。

つまり、燃料代が上昇すれば52%という比率もより大きくなります。

 

A社の粗利益と営業利益はこうなった

A社の2021年4月時点の粗利益率は次のように12%でした。

 

ところが燃料代は2021年4月時点の70円/Lから、2022年6月時点では105円/Lにまで上昇しました。

.5倍の上昇です。

その結果、顧客への売値は次のように調整されました。

 

運賃調整率(%)

=(100-(A-B)*0.3)/100

=(100-(70-105)*0.3)/100

=10.5%

 

このように10.5%の売上増になります。

傭車の下払いについても同じ計算式で調整されますので、10.5%のコスト増になります。

一方、自社トラックについては燃料代が1.5倍になるため、原価の増分は次のようになります。

 

原価増分(%)

=52×0.5÷100

26

 

この結果、下図のように粗利益率は2%低下しました。

 

たかが2%の低下ですが、2021年4月時点で3%だったA社の営業利益率は1%まで減少してしまいました。

でも、A社は庸車比率が75%と高かったため、まだ幸いだったといえるでしょう。

もし全部自社トラックだったら、売上高が10.5%しか増えないのにコストが26%も増えてしまうため、粗利益ゼロ営業利益では赤字になっていたところでした。

 

しかし、その割を食ってしまったのが庸車を提供している下請け会社です。

これらの会社は自社トラック100%で運行しているため、完全に赤字になってしまう会社が出てきました。

そのような会社からは値上げを要求され、

要求を飲めないならスト!

といわれたのです。

この国では本当にストを決行するため、やむなく値上げを受け入れています。

A社はこの噂が他の下請け会社にも広がり、

うちも値上げしろ!

といわれることを恐れています。

そうなったら最後、顧客に頭を下げて燃料サーチャージの計算式を変えてもらうようお願いするしかありません。

でも顧客からは

コロナ禍で燃料代が安かった頃はガッポリ儲けてたんでしょ ^^

と軽くあしらわれるだけでしょう。

 

燃料ディスカウントも一緒に導入すべき

日本は燃料サーチャージが受け入れられないカルチャーでお話しになりませんが、今後受け入れられるようになったとしても、その計算式には注意が必要です。

A社のように運賃を%で調整するのは、一見便利そうに見えて実は無理があります。

なぜでしょうか?

売値(運賃)に占める燃料代の割合は会社によって異なります。

人件費や本社コストが高い会社では、燃料代の割合は低くなります。

しかも、その割合は燃料代が変わると変わります。

特に昨今のように大きく変動すると、大きく変わります。

そして、この割合が一定していないと%で運賃を調整することはできません。

無理に%で運賃を調整しようとしても誤差が大きくなるだけです。

 

その点、全日本トラック協会や国土交通省が提唱している計算式は、燃料代の上昇に伴うコスト増の絶対額を運賃に上乗せするやり方なので、合理性があります。

JTAホームページ 「燃料サーチャージへのご理解をお願いいたします」 から抜粋

 

ルートごとに走行距離を登録しておけば、運賃タリフを更新する手間も大したことはありません。

日本でも早くこの燃料サーチャージが受け入れられるようになってほしいと思います。

 

ただ、そのためには燃料ディスカウントも導入すべきだと思いますけどね。

JTAのホームページでは、燃料代が100円/Lを上回るとサーチャージといっているのに、下回った場合はそのままのように書かれています。

JTAホームページ 「燃料サーチャージへのご理解をお願いいたします」 から抜粋

 

荷主に燃料サーチャージを受け入れてもらうには、燃料ディスカウントもセットで提案すべきだと思うのは管理人だけでしょうか。