日本発着の航空券の燃油サーチャージはどうして特別に高いのか?

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2022年9月4日現在、東京からバンコク往復の航空券をJAL便で買うと、燃油サーチャージだけで5万円近くかかります。

更に、予約するのが遅れて10月に発券すると、約6万円になります。

ネットで安い航空券を見つけても燃油サーチャージは含まれていないことが多く、最終的な支払額は10万円を超えることになります。

昨今は世界的に原油高が進んでいるという事情はあるものの、日本発着航空券の燃油サーチャージは他国発着に比べて特に高くなっています。

なぜこんなことになってしまうのか調べてみました。

 

また、日本のトラック業界で燃料サーチャージがなかなか受け入れられない現状については

トラック運送の燃料サーチャージの計算方法で得するツボをこっそり教えます。

【燃料サーチャージ】誤った計算式で契約してしまったトラック会社の窮状

で記事にした通りですが、航空業界の燃油サーチャージは国土交通省が出しているガイドラインで計算するトラック燃料サーチャージに比べて、遥かに高額になっています。

この記事を読んだら、日本のトラック業界の悲哀に共感すること間違いなしです。

 

【ゆっくり解説】Youtubeはじめました!

燃油サーチャージの調整方法

調整間隔は?

乗用車はガソリンエンジン、トラックにはディーゼルエンジンが使われますが、航空機には主にジェットエンジンが使われます。

そしてガソリンエンジンの燃料はガソリン、ディーゼルエンジンの燃料は軽油ですが、ジェットエンジンの燃料はケロシンです。

ですので、航空業界の燃油サーチャージはケロシンの市場価格により調整されます。

JALやANAの日系2社は、シンガポール市場のケロシンのスポット価格に応じて燃油サーチャージを調整しています。

 

このスポット価格は日々変わりますが、毎日サーチャージを調整するなんてことはやってられないので、2か月ごとに調整しています。

具体的には次のような周期で更新しています。

JAL HP |国際線「燃油特別付加運賃」より抜粋

 

つまり、4~5月のケロシン市場価格の平均を元に、2か月の冷却期間を置いて、8~9月の燃油サーチャージが調整されるというように、3~4か月前の市場価格に基づいて2か月おきに調整されています。

冒頭で述べたように10月からサーチャージが変更になるというのは、ちょうど2か月の区切りが来るためです。

 

調整幅は?

ケロシンは輸入商品ですので、米ドルで取引されます。

日系2社はそれを円で購入しますので、円に換算した価格を基にサーチャージの調整額を決めます。

具体的には1バレル当たりの市場価格が6,000円未満ならサーチャージなし6,000円以上7,000円未満なら2,0007,000円以上8,000円未満なら3,800、、、というように市場価格が1,000円変わるごとにサーチャージ額を調整しています。

2000年1月から2022年6月までのケロシン価格の推移は次の通りです。

 

これを見ると、シェール革命で世界の原油価格が下がっていた2016年頃や、コロナショックの2020年頃はケロシン価格が6,000円を下回っていたことが分かります。

その頃は燃油サーチャージはゼロでした。

しかしウクライナ危機に円安が重なって、今は円建てにしたケロシン価格は突き抜けています。

なお、このサーチャージ額は日本―東南アジア間の場合で、日本―韓国間の場合にはもっと安くなり、日本―北米間の場合は高くなります。

 

このように、ケロシンの市場価格が1,000円単位で変動したら、距離に応じた額が調整されます。

この距離に応じた額がどのように決められるかは企業秘密ですが、大体の当たりをつけることはできます。

これについては後ほど触れます。

 

いつから導入されたの?

このような燃油サーチャージは海運業界では1975から導入されていますが、航空業界ではもっと遅く、貨物機では2001から、旅客機では2005から導入されました。

日系2社もこのタイミングで導入しましたが、当初はドル建てのケロシン価格を基にサーチャージを調整していました。

ケロシン価格が60ドル未満ならサーチャージなし、60~70ドルなら2,000円という具合です。

しかし、アベノミクスにより円安に大きく振れたことで為替差損が無視できなくなり、2015年から先述したように円建てで調整するようになりました。

 

なぜ日本発着の燃油サーチャージは高いのか?

円建ての調整では6,000円が燃油サーチャージの有無の境界点になっています。

つまり1ドル=100円としてドル建てから円建てに変えたことになります。

今は1ドル=130円を超える円安ですので、ケロシン価格を3割増し以上で評価していることになります。

これが日本発着の燃油サーチャージが他国に比べて高くなっている1つの要因です。

 

また、この燃油サーチャージの調整式はIATA(国際航空運送協会)で決めているものではなく、航空会社各社が独自に決めています

ケロシン価格が10ドル変動したらいくら調整するかは、各社まちまちです。

基本的には

運行距離÷燃費×ケロシン価格の上昇額=燃油サーチャージ

と計算しているはずですが、各社まちまちなのです。

そして日系2社は調整幅が大きくなっています。

どれくらい余裕を持った調整幅になっているかは後ほど考察しますが、これが日本発着の燃油サーチャージが高くなっている2つめの理由です。

 

ちなみに日本発着の便を飛ばしている航空会社は日系2社以外にも多くありますが、他の外資系の航空会社も似たような調整額になっています。

これは外資系の航空会社が日本政府に燃油サーチャージ額を申請する前に、日系2社に合わせているためです。

例えば、タイ国際航空が日本発タイ行きの燃油サーチャージを安くしようとしても、日系2社は抜け駆けを許しませんし、日本政府も認可しないでしょう。

そんなことしたら、誰も日系2社を使わなくなってしまいますからね。

 

トラックの燃料サーチャージとの比較

日本のトラック業界の燃料サーチャージの計算式については、国土交通省から下記のようにすべしという指針が出されています。

燃料サーチャージ額=走行距離÷燃費×燃料上昇額

 

これを航空機の場合に当てはめてみましょう。

そのためには航空機の燃費を知る必要がありますが、下記のサイトを参考にさせていただきました。

マニアな航空資料館|【飛行機の燃費】ボーイング・エアバス 機種別一覧 より抜粋

 

平均すると、1人の乗客を100km運ぶのに約2.5Lの燃料を消費していることになります。

東京-バンコク間の飛行距離は約4,600kmですので、一人当たり約115Lの燃料を使っています。

 

この時、燃料であるケロシン価格が1,000円上昇したら、航空会社にとって燃料コスト代は次のようにアップします。

ケロシン価格上昇額1,000円/バレル=6.3円/リットル(1バレル≒159リットル)

燃料コスト上昇額/人=115L/人×6.3円/L=725円/人

 

ケロシン代が1,000円上昇するたびに、乗客一人当たりの燃料コストは725円上昇することが分かりました。

これに対してJALが公表している燃油サーチャージは下記の通りです。

JAL HP |国際線「燃油特別付加運賃」より抜粋&加筆

 

ケロシン代が1,000円上昇するたびに,700円から2,900円を各乗客から徴収しています。

燃料コストの上昇額に比べて、ざっと約2倍から4倍を徴収していることになります。

 

でもこれは搭乗率100%とした場合です。

実際にはもっと低いでしょう。

路線ごとに搭乗率を勘案してサーチャージを計算しているはずです。

そう考えると、搭乗率を25%~50%として燃油サーチャージを決めていることになります。

 

これはトラック会社としては夢のような話しですね。

燃料コストアップ額の一部分を転嫁することすら荷主から拒否されているのに、航空業界では十分に余裕をみて計算した燃料コストアップ額を丸々転嫁できているのですから。

 

他国発着との比較

タイのもう一つの航空会社であるバンコクエアウェイズの燃油サーチャージを見てみましょう。

日本発着は下記のようになっています。

クリックすると拡大します。

Bangkok Airways Fuel & Surcharge Announcement より抜粋

 

日系2社と事前調整していますので、日系2社とほぼ同額になっています。

一方、他国発着は次のようになっています。

Bangkok Airways Fuel & Surcharge Announcement より抜粋

 

バンコクー香港間で見てみましょう。

バンコクー香港間の飛行距離は約1,690kmで、バンコクー東京間の約37%です。

バンコクー東京間の燃油サーチャージは180ドルですが、その37%は66ドルです。

でも実際には40ドルしかとっていませんね。

30%の円安プレミアムを載せても52ドルですから、日本発着はそこから更に30%くらい高くなっているわけです。

 

まとめ

日本発着の燃油サーチャージが高い理由

  • 2015年にドル建てから円建ての調整に変えた際、1ドル=100円で換算しているため、現在のような円安局面ではプレミアムが付く
  • 日系2社の調整式はかなりの余裕を見ている
  • 外資系航空会社も日系2社に合わせるため高くなる

トラック業界と航空業界の比較

  • 航空業界では、一機当たり(1台当たり)の燃料コスト上昇額に、余裕をみた搭乗率(積載率)まで加味して計算したコスト上昇分を丸々転嫁できている
  • トラック業界では純粋な燃料コスト上昇分すら転嫁できない会社が数多くある
  • 寡占業界の強みと言ってしまえばそれまでだが、日本の荷主の皆さん、弱い者いじめはもうやめましょうよ

 

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