拠点集約で在庫削減するために一番重要なのは調達リードタイムである理由
前回の記事で、倉庫を集約したのに安全在庫が期待通りに削減されないのは、共分散に原因があることを解説しました。
拠点集約したのに在庫が減らない原因は共分散。その対策は平準化
集約前の倉庫での出荷パターンが似ていると相関係数が高くなり、共分散も大きくなり、安全在庫があまり削減されないというロジックです。
相関係数が最大である1になると、安全在庫は全く削減されません。
共分散が大きい = 相関係数が大きい = 安全在庫は削減されにくい
ただ、相関係数が1ということは出荷パターンが完全に一致しているということですから、滅多に起こることではありません。
通常、相関係数は0.3から0.8くらいの間に収まるでしょう。
であれば、安全在庫は多少なりとも削減されることにはなります。
拠点集約による在庫削減では需要予測在庫も考慮すべき
しかし、在庫は安全在庫だけではありません。
需要予測在庫の増減も考慮しないと片手落ちです。
それは適正在庫の計算式から明らかです。
在庫補充目標量=安全在庫+需要予測在庫
=√(N+M)*標準偏差*安全係数+(N+M)*1日あたりの売上平均
適正在庫を維持するための発注数の決め方をわかりやすく【定期発注方式の場合】
本記事では、需要予測在庫も併せた全在庫が、倉庫集約によりどのように増減するかをシミュレーションしてみます。
結論を先に言ってしまうと、集約しても在庫削減できない悲劇は簡単に起こりえます。
需要予測在庫も含めた在庫削減量をシミュレーションする
シミュレーション方法
シミュレーションソフトは、過去記事で紹介した一番ベーシックなものを使います。
【無料サンプル付き】適正在庫シミュレーションをエクセルで作る方法
倉庫にはいろいろな商品が在庫されているかもしれませんが、概算のシミュレーションであれば、代表的な1商品についてだけ行えば十分です。
代表的な商品を商品Aとし、それぞれの倉庫における日々の出荷数は下記のパラメータにより確率的に変動するものとします。
倉庫1
平均=1,000、標準偏差=600
倉庫2
平均=800、標準偏差=400
その上で、それぞれの倉庫における1/1から4/30までの出荷量を、上記のパラメータに従う正規分布乱数で生成します。
例えば、倉庫1の場合は次のようにします。
そして、1/1から2/14までの出荷量データを使って安全在庫を決定し、適正在庫理論に基づいた発注を行った場合に2/15から4/30の在庫推移がどうなるかをシミュレーションします。
すると下図のような在庫推移データができますので、平均在庫を計算できます。
これを集約前後で比べることによって、全在庫(安全在庫+需要予測在庫)がどれくらい減ったか増えたかが分かります。
ちなみに、集約後の出荷量は、倉庫1と2で生成した出荷量の乱数を足した値をそのまま使います。
また、発注間隔は毎日、発注してから倉庫に納品されるまでのリードタイムは3日としました。
シミュレーション結果
共分散が小さい場合
まず、共分散が小さいケースについてシミュレーションするために、相関係数が0.27の場合の結果を示します。
繰り返しになりますが、相関係数は倉庫1の商品Aの出荷パターンと倉庫2の商品Aの出荷パターンがどれくらい似ているかを表します。
同じ曜日に、同じくらいの比率で出荷が多ければ、相関係数は高くなります。
相関係数が0.27ということは、全く相関がないわけではないが、相関は低い方です。
相関が低いということは、安全在庫はまあまあ削減されるということです。
理論通り、集約前の安全在庫3,592に対して709削減されますので、20%削減されたことになります。
一方、需要予測在庫の削減量はゼロです。
これは、需要予測在庫が
需要予測在庫=(発注間隔+リードタイム)×一日当たりの平均出荷量
で表されるためです。
倉庫集約しても、商品Aの出荷量は変わらないため当然ですね。
全在庫で言うと、集約により全在庫の15%が削減されたことになります。
(709÷4,846=15%)
共分散が大きい場合
次に、共分散が大きい場合(相関係数が高い場合)でシミュレーションします。
結果はこのようになりました。
安全在庫の削減量がだいぶ少なくなりました。
率にすると、たったの4%です。
相関係数が大きいと共分散が大きくなり、それが集約後の安全在庫量を押し上げるためです。
一方、需要予測在庫の削減量は相変わらずゼロです。
全在庫では、たったの3%しか削減されていません。
共分散が小さく、リードタイムが悪化する場合
それでは次に、集約前後でリードタイムが変わるケースでシミュレーションしてみましょう。
2つの倉庫を1か所にするのですから、どちらか一方の倉庫で条件が悪化することは十分に考えられます。
下記のケースを想定します。
倉庫1
リードタイム=3日
倉庫2
リードタイム=2日
集約倉庫
リードタイム=3日
つまり、商品Aを倉庫2に在庫していた時には、ベンダーに商品を発注したら2日で納品されていたが、集約倉庫では3日かかるようになったという想定です。
相関係数が0.01の場合の結果は、次のようになりました。
相関がほとんどないので、安全在庫は858と結構削減されます。
しかし、倉庫2に在庫していた商品のリードタイムが集約後には1日延びるため、その分だけ需要予測在庫が増えます。
具体的には、1日分の在庫が増えることになります。
そのため安全在庫の削減分がほぼ相殺されてしまい、全在庫はほとんど減りません。
共分散が大きく、リードタイムが悪化する場合
次に、相関が高いケースでシミュレーションしてみましょう。
相関が高いため、安全在庫はほとんど削減されません。
一方で、需要予測在庫は相関が低いケースと同様に、増えます。
そのため、全在庫は在庫削減どころか間違いなく増えることになります。
シミュレーション結果のまとめ
実験結果から、次のことが分かります。
- 集約前後でリードタイムの条件が変わらなければ、安全在庫だけしか削減されない
- 安全在庫の削減量は、相関係数が低ければ大きく、高ければ小さくなる
- 集約後にリードタイムが悪化する商品があれば、需要予測在庫は悪化した日数分だけ増える
在庫削減に大きく寄与するのは調達リードタイム
以上のシミュレーション結果を見返すと、踏んではいけない地雷を踏みがちなことに気づきます。
地雷1
違う倉庫に保管している同じ商品の出荷パターンが似ていると、安全在庫はほとんど削減されません。
しかし、大抵の場合、似ているのではないでしょうか。
地雷2
倉庫集約して、全体としてリードタイムが悪化すると需要予測在庫が増えてしまいます。
リードタイムが悪化する倉庫があるなら、逆に良くなる倉庫がないと、需要予測在庫は増えます。
従って倉庫を集約するなら、調達リードタイムが短くなる場所に集約すべきです。
しかし、実際は顧客リードタイムを重視した場所選びをすることが多いのではないでしょうか。
いずれも踏みやすい地雷で、そのため倉庫集約しても在庫が減らないという悲劇がなくなりません。
最後に、もう一つ大きな教訓がこの実験から得られます。
在庫削減というと安全在庫に目が向きがちですが、需要予測在庫の方が量が多いため重要です。
しかも、安全在庫は自社でコントロールできない出荷量のばらつきに左右されますが、需要予測在庫は自社でコントロールできるリードタイムと発注間隔に左右されます。
従って、需要予測在庫を減らすことにより注力すべきでしょう。