【Back to Back CO】中継貿易に特恵関税を適用して関税を合法的に減らす方法
仲介貿易と中継貿易の違い
仲介貿易(三国間貿易)はモノは輸出国から輸入国に直送して、支払いだけを第三国を挟む形態の貿易でした。
物流と商流は完全に分離されています。
これに対して、中継貿易ではモノも第三国まで運びます。
つまり物流と商流は分離されません。
中継貿易のメリット
仲介貿易においては、モノは直送することで輸送費削減になるのがメリットでしたが、中継貿易には何のメリットがあるのでしょうか?
それは在庫分割です。
買い手の注文量が少ないと輸送費は割高になります。
そこで、買い手の近くまで大量に輸送して在庫しておき、買い手から注文が入ったら少しずつ送る方が安くつく場合があります。
買い手が一か所だけでは中々メリットが出なくても、同じようなエリアに固まっていればメリットがあります。
輸送コスト削減のメリットだけではありません。
買い手の近くに売り手の在庫があれば、買い手は小ロットで多頻度発注ができるようになり在庫削減できます。
この辺りの話しについては別記事で解説していますので、良かったら参照してみて下さい。
在庫削減にはリードタイム削減よりも発注間隔の短縮化が重要な理由
リードタイムを短くしても在庫削減はできない!|シミュレーションで証明します
代表的な中継国である香港やシンガポールは、背後に中国やアセアンの巨大マーケットがあることから、このような貿易が成り立っています。
将来はスリランカも、インドの玄関口としての中継国の役割りを果たすようになるかもしれません。
中継貿易で合法的に関税を削減する方法
積送基準における非加工証明書は使えない
このようにサプライチェーンコスト削減にメリットがある中継貿易ですが、特恵関税が使えなくなってしまっては元も子もありません。
今やEPAやFTA花盛りで、各国が競って自由貿易協定を増やしています。
このEPA/FTAでは、どの協定でも大体積送基準という規定があります。
これは、貨物は基本的に輸出国から輸入国へ直送されなければならない、もし第三国を中継する場合には、その国で何の加工もされていないことを証明せよ(非加工証明書と呼ばれる)、という規定です。
後者は「税関その他の権限を有する官公署が発給した証明書又はその他税関長が適当と認める書類」を入手しなければならないのですが、一旦輸入通関してしまった貨物を税関は管理できませんので事実上入手は不可能です。
Back to Back COを使うのが一般的
その代わりに、日系企業が多く集積しているアセアンが絡んでいるEPA/FTAでは、Back to Back CO(Back to Back Certificate of Origin)の発給を受けることができます。
これは連続する原産地証明書とも呼ばれ、第一輸出国(メーカーがある国)で発給された「最初の原産地証明書」に基づき、第二輸出国(中継国;商社がある国)で
「この貨物は確かに第一輸出国で生産された製品で、アセアン原産品の資格を失っていませんよ」
ということを証明する「連続する原産地証明書」を発給してくれる制度です。
ASEAN物品貿易協定(ATIGA;ASEAN TRADE IN GOODS AGREEMENT)のANNEX 8には、次のように明記されています。
Back to Back CO運用の注意点
注意点がいくつかあります。
3か国とも同じEPA/FTAに加盟していること
まず第一輸出国、第二輸出国、輸入国の3か国はすべて同じEPA/FTAに加盟していないといけません。
これが仲介貿易(三国間貿易)との大きな違いの一つです。
仲介貿易では輸出国と輸入国が同じEPA/FTAに加盟していれば、第三国は加盟していなくても構いません。
FOB価格を記載しなければならないケースもある
第二に原産品判定基準でRVC(Regional Value Content)を使っている場合には、FOB価格をBack to Back CO上に記載する必要があります。
当然、第一輸出国で発給されたCO(Certificate of Origin;原産地証明書のこと)もRVC基準のためFOB価格が記載してあります。
通常、輸入者はBack to Back COだけを入手して輸入税関に提出しますが、稀に第一輸出国で発給されたCOの提出も輸入国税関から求められることがあります。
その場合、第二輸出国でいくら鞘を抜いているかがバレてしまいますので、隠しておきたい人は注意が必要です。
在庫分割もできるがひと手間増える
第三に、在庫分割をして出荷したい人はひと手間増えます。
在庫分割とはどういうことかというと、第一輸出国から大ロットで輸入して、第二輸出国からは小ロットで輸出することです。
もし100台分まとめて最初のCOが発給されていて、それらを10台ずつ中継国から輸出する場合には、輸入した100台中10台は再輸出して、残りの在庫は90台ですよということを税関に申告する必要があります。
申告書式は自由ですが、シンガポール税関からはサンプル書式として次のようなファイルが提供されています。
発給してくれない国もある
このようなBack to Back COの発給に関する取り決めはATIGAの規則で定められていますが、加盟国の中では発給してくれない国もありますので、事前に各国税関に問い合わせる必要があります。
しかし、発給をしてくれない国はありますが、発給されたBack to Back COを輸入通関に使うことはどの国も問題ありません。
Back to Back COがよく利用されるケース
このBack to Back COはアセアンではシンガポールに販売統括拠点を持つメーカーでよく使われています。
アセアン各国で海外向けに製造された製品をシンガポールに在庫して、注文に応じて少量多品種をフルコンテナに仕立ててアセアンを含む各国に配送します。
シンガポールでかかる保管費用を考慮しても、各工場から少量少品種で配送するよりも輸送費を抑えられ、特恵関税も使えるのでメリットがあるのです。
アセアンはアセアン域内だけでなく、他の国とも自由貿易協定を結んでいます。
このように一国対一国の線ではなく、エリアを面でカバーするような自由貿易協定を広域自由貿易協定と言いますが、アセアンを含む広域自由貿易協定には下記のようなようなものがあります。
これらの自由貿易協定を使えば、シンガポールを中継国として日本や中国等へ送っても特恵関税を享受できます。
特恵関税を享受するための注意点については、こちらも参照してみて下さい。
【Form Dとは?】申請方法や三国間貿易/中継貿易に使う際の注意点をまとめてみた
おまけ:アセアン-香港の自由貿易協定はメリット薄
そして今年2月、中継貿易国として名高い香港との間にも広域自由貿易協定が全面発効しました。
しかし、これで香港もアセアン市場を取り込めるようになったかというと、話はそう簡単ではありません。
先述しましたが、中継貿易を行うには3か国すべてが同じ広域自由貿易協定に属していないといけません。
そのため、ASEAN香港自由貿易協定では、香港を中継国として中国本土へ送ることができません。
中国本土のメーカーから香港を中継してアセアン各国にも送れません。
否、送れますが特恵関税を享受できません。
これはASEAN中国自由貿易協定を使っても同じことです。
これら2つの自由貿易協定が合体しないと、香港を中継国としてアセアンと中国本土間で特恵関税を享受することができないのです。
アセアンで製造された製品を、わざわざ香港に在庫してアセアン各国に送ろうという人はいないでしょう。
今後の自由貿易協定の拡大が待たれるところです。