製造業のカイゼン手法は物流業では使えない|SCMが重要な理由
製造業のカイゼン手法は物流業でも使えるのか?
物流業は、何かと製造業の真似をしたがります。
製造業には工場があり、そこでの管理手法はここ100年ほどの間に確立されています。
物流業にとり製造業は大事な顧客ですので、顧客から管理レベルをある程度揃えるように求められるという事情はあります。
でもそれと共に、物流業から独自の管理手法が出てきてないという事情もあります。
製造業からは、フォード生産方式、リーン生産方式、シックスシグマ、QC7つ道具などを始めとするIE(インダストリアルエンジニアリング)手法が沢山出ています。
いずれも一度は聞いたことがあるような有名なキーワードばかりです。
物流業も何かないと格好悪いということで、製造業のやり方を真似して、他の物流会社と差別化しようとしているのです。
そこには、倉庫と工場は同じという発想があります。
工場はピッチャー、倉庫はバッター
ところが、これは全く違います。
工場は自分たちのペースで仕事ができますが、倉庫は受け身です。
野球でいうと、工場はピッチャー、倉庫はバッターのようなものです。
勿論、工場も需要に応じて生産計画を立てますが、そのサイクルは短くても数日単位です。
ところが、倉庫はその日にならないと需要が確定しません。
そのため、需要を予想して作業計画を立てますが、時間単位の計画を立てても当たる保証はありません。
結果、手待ちが生じたり、人手が足りなくて残業になったりします。
IEは、基本ピッチャー向けの方法論です。
つまり、自分たちで主体的に計画を立てられる場合には、効果を発揮します。
物流で細かい時間分析は使えない
例えば、時間分析です。
これはストップウォッチを使って基本動作の時間を測ることによって工程に要する時間を見積もる手法です。
製造業ではモノを持ち上げる、挟む、外すなど細かく基本動作に分解した上で、数秒単位で作業時間を積み上げます。
物流業ではそこまでやることは少なく、貨物をフォークリフトで棚入れするのに何十秒、一つピッキングするのに何分というようなザクッとした数字です。
つまり物流業の時間分析は粒度が粗いので、効果は限られます。
物流は待ち時間を制御できない
その上にやっかいなのは待ち時間です。
前日に明日の物量はこれくらいだろうと予想して人員を配置していても、時間単位での見込みは大抵外れます。
確率論を勉強して一番高い確率に賭けるしかありません。
その結果、待ち時間が発生すると、何十秒、何分という粗い粒度の作業時間でさえ、簡単に無意味になってしまいます。
このように待ち時間ができた時、もしくはそれを直前で予測して、空いた人員を機動的に他の仕事を割り振るという管理者の瞬発力の方が遥かに重要になります。
とはいっても、なかなかそのようなことも難しいため、常に人員を少し不足気味にしておくことがコストで考えると最適解になってしまいます。
その方が、待ち時間を確実に減らせるためです。
そのため、倉庫は残業が多く、終わりの時間が読めないブラックな職場と思われてしまうのです。
SCMで平準化がひとつの解
しかし、これは解決策がないということではありません。
作業ピークが重ならないように顧客に入出荷時間を調整してもらうのは、解決策の一つです。
これは物流業者だけでできることではないため、顧客の協力を得て全体最適を目指すことになります。
SCM(サプライチェーンマネジメント)の一つと言えます。
物流は大手が有利、製造業はさもあらず
また、大規模な物流センターであれば、作業ピークは自然に分散されます。
これは、複数顧客の貨物を扱うセンターであっても、単独顧客のセンターであっても同じです。
統計学でいう大数の法則によって、ばらつきが小さくなるからです。
近年、物流センターの大規模化が進んでいるのも、この文脈で捉えられます。
結局、物流業は多くの貨物を集められる会社が強いのです。
物量が多くなれば、船や飛行機やトラックなどを仕入れる時、有利な料金を引き出せます。
契約した輸送スペースを常に満載にできる確率も高まります。
加えて、物流センターの作業ピークも分散され、待ち時間によるムダも減らせます。
物流業界に入るなら大手を目指すべき大きな理由です。
製造業はどうでしょうか?
これは必ずしも大手の収益率が高いとも言いきれません。
技術力で差別化できるからです。
逆にいうと、差別化できるほどの技術力を持った物流会社は、今のところほとんどないと言えます。
今後のDXに期待するところです。
まとめ
物流業は自分たちで業務量をコントロールすることができません。
常に受け身の存在です。
この中で収益力を上げる方法は2つです。
一つは、顧客の協力を得てサプライチェーンマネジメントを推進すること。
もう一つは、貨物を集めて、規模の経済を働かせることです。
それなくして、製造業の管理手法を真似しても無駄骨に終わるでしょう。