トラック積載率と包装強度のトレードオフを一次不等式で解いてみた。
トラックに満載して輸送すれば輸送コストは下がりますが、満載で走っているトラックは多くありません。
満載にできない理由は様々ありますが、包装材の強度が足りないために積載できる段数が限られ、荷台の上部が半分くらい空になっているケースがあります。
この場合は包装材の強度を上げて積載可能な段数を増やせば、容易に単位貨物当たりの輸送コストを削減できるはずですが、包装材のコスト上昇がネックとなり変更に踏み切れないケースがあります。
今回は、包装強度の変更費用が回収できるための条件を数学で解いてみます。
トラック積載率と包装強度のトレードオフ事例
まず問題を単純化するために下記のような前提を置きます。
あるメーカーが工場から2つの倉庫に在庫移動し、そこから顧客へ配送しているケースを考えます。
工場から各倉庫への在庫移動はコンテナトラックで行い、一度に22パレット運べます。
1パレットには5段で90ケースが積めます。
ケースの高さは30cmでパレットの高さは20cmで、5段積みした時の高さは170cmです。
コンテナの内寸は2.4mですので、貨物の上70cmは空気を運んでいることになります。
もっと高く積みたいところですが、包装材強度の制約で積めません。
包装材の強度を上げるにはコストアップになるため、生産部門は包装強度を上げる考えはありません。
そこで物流部門のMさんは会社全体のことを考えて、積載率向上による輸送コスト削減額内に収まる包装コスト上昇額を計算して、生産部門に提案しようとしています。
工場からA倉庫へは一日トラック6便出ていて1便当たりの輸送コストは30,000円、B倉庫へは一日トラック4便出ていて1便当たりの輸送コストは70,000円です。
さてMさんはどのように計算すれば良いでしょうか?
一次不等式でモデル化して解く
輸送コストの削減額
まずどこまで積載率を上げられるかを見ておきましょう。
現状、高さ30cmのケースを5段積みして、高さ20cmのパレットに載せて合計170cmですので、あと2段積んでも
30cm×7+20cm=230cm
ですので、コンテナの内寸240cmに収まります。
すると5段積みを7段積みにできますので、
7段÷5段=1.4
ということで1.4倍、つまり積載率を40%上げられることになります。
この場合の輸送コストはどう変わるでしょうか?
現状の輸送コストは、
30,000円/便×6便+70,000円/便×4便=460,000円 ・・・ 式1
です。
一方、積載効率を40%上げられるとすると輸送コストは、
30,000円/便÷1.4×6便+70,000円/便÷1.4×4便=328,571円 ・・・ 式2
となります。
包装コストの上昇額
次に空ケース代、つまり包装コストがどうなるかを計算しましょう。
現状の空ケース代をX円/ケースとすると、1パレットに90ケース載せていますので、現状の1日のケース代は、
X円/ケース×90ケース/パレット×22パレット/便×6便+X円/ケース×90ケース/パレット×22パレット/便×4便=19,800X円 ・・・ 式3
です。
一方、7段積みにした場合の1日のケース代は、ケース強度を上げるためにケースの調達価格がY円/ケース上がるとすると、
(X+Y)円/ケース×90ケース/パレット×22パレット/便×6便+(X+Y)円/ケース×90ケース/パレット×22パレット/便×4便=19,800(X+Y)円 ・・・ 式4
です。
7段積みにしてもトラックの便数を減らすことによって1日に運ぶケースの量は変わりませんのでこのようになります。
トレードオフを一次不等式で解く
ケースの強度を上げて積載率を上げる場合の輸送コストとケースコストの合計が現状よりも下がれば良いので、
式1+式3>式2+式4
が成り立てば良いことになります。
つまり、下記の不等式を解けば良いことになります。
460,000円+19,800X円>328,571円+19,800(X+Y)円 ・・・ 式5
19,800Xは両辺にあって打ち消されますので、これを解くと、
Y<6.6円
となります。
つまり、7段積みできる強度のケース代の調達価格が、現状のそれよりも6.6円/ケース以内なら会社全体で見た時のトータルコストが削減されるということになります。
解を一般化する
これは上記の特定の状況での計算結果ですので、勿論いつも6.6円/ケース以内の価格上昇ならOKというわけではありません。
一般化するために、式5をもう少し詳しく見てみましょう。
この式をもう少し嚙み砕くと次のようになります。
現状の輸送コスト+現状のケースコスト>変更後の輸送コスト+現状のケースコスト+変更後のケース追加コスト
式を変形すると、
輸送コストの削減額>変更後のケース追加コスト
となります。
更に変更後のケース追加コストは、ケース数×ケース当たりの追加調達コストですので、
輸送コストの削減額÷ケース数>ケース当たりの追加調達コスト
と書けます。
つまり、輸送コストの削減額をトラックに載るケース数で割った額以下で空ケースの強度強化ができるなら、強化した方が良いという言われてみれば当たり前の結果になるのでした。
応用問題
複数種類のケースがある場合
以上、問題を単純化して、すべてのケースが同じ大きさという前提で解いてきましたが、異なる種類のケースが混じっていても考え方は同じです。
6段以上は積まないという運用をしている場合、種類の異なるケースがいくつかあれば、そのうちのいくつかは本当は6段以上積める強度があるのに、他の強度が弱いケースに合わせて5段までしか積んでいないと考えるのが普通です。
そのような場合は、既に強度が足りているケースは強化する必要がありませんので、
輸送コストの削減額÷ケース数>ケース当たりの追加調達コスト
の式におけるケース数から強度が足りているケース数を引くことができますので、より多くの費用をケース強化に充てることができます。
トラック便数が端数になる場合
また今回の計算では5段積みから7段積みにすることによって積載率が1.4倍になるため、ケース当たりの輸送コストが1/1.4になるものとして計算していました。
しかし実際には積載率が1.4倍になっても自動的に単位輸送コストが1/1.4になるわけではなく、便数が1/1.4にならないと輸送コストは1/1.4になりません。
一日に6便しか走らせていない場合、積載率を上げると6/1.4=4.3便となり、端数が出てしまいます。
この場合、5便目を0.3の積載率で走らせるのはムダが多いため、次の日の在庫を一部前倒しで移動することによって5便も満載にするという運用が取られます。
(その分、次の日は4便になる)
いずれにせよ、
輸送コストの削減額÷ケース数>ケース当たりの追加調達コスト
を基本コンセプトとしながら、枝葉末節を調整していくことになります。