三井倉庫の売上高/事業内容/強みを物流業界経験者がわかりやすく解説します

2024年3月9日

老舗ながら過去10年の積極的なM&Aで売上高2.5倍

三井倉庫は1909年創業の老舗物流会社で、2014年に持株会社制に移行して三井倉庫ホールディングスになりました。

現在、中心となる事業会社は5社あります。

  1. 三井倉庫
  2. 三井倉庫エクスプレス
  3. 三井倉庫ロジスティクス
  4. 三井倉庫サプライチェーンソリューション
  5. 三井倉庫トランスポート

 

このうち、2は2012年にトヨタ自動車の子会社で国際輸送を手掛けるTASエクスプレスとの合弁で、3は2015年に三洋電機ロジスティクスを、4は2015年にソニーサプライチェーンソリューションを、5は2015年に丸協運輸を買収する形で誕生しました。

ごく大雑把にいえば、元々売上1,000億円くらいだった三井倉庫が、これら4社を取り込むことで売上2,000億円くらいになり、その後、5年間でシナジーを発揮して2,500億円まで成長してきたといえるでしょう。

物流会社売上ランキング2021年版 14位)

 

利益率が突出して高い不動産事業

三井倉庫HDでは2017年からセグメント区分を物流事業不動産事業の2つに減らしたため、これら5つの事業会社の個別の売上は分かりません。

しかし、2016年までは細かく開示されていて、その時点では買収も完了しているため、そのデータから大体の推測は可能です。

三井倉庫・・・倉庫保管事業+港湾運送事業

三井倉庫エクスプレス・・・航空貨物輸送事業

三井倉庫ロジスティクス・・・3PL事業

三井倉庫サプライチェーンソリューション・・・サプライチェーンマネジメント支援事業

三井倉庫トランスポート・・・陸上貨物運送事業

三井倉庫インターナショナル・・・海外における物流サービス、複合一貫輸送事業

三井倉庫ビジネストラスト・・・アウトソーシング事業

三井倉庫ホールディングス・・・不動産賃貸事業

 

航空フォワーディングエクスプレスだけでなくサプライチェーンソリューションにも一部含まれていたり、海上フォワーディングインターナショナルだけでなくエクスプレスサプライチェーンソリューションにも一部含まれていたりするかもしれませんが、概ねこんな感じだと思います。

 

これを見ると、改めて祖業である不動産賃貸事業の収益率が高いことが分かります。

しかし物流不動産ならまだ何とかなるとしても、商業施設を開発することは現実的ではなく、今後は先細りになると言われています。

 

2017年以降は右肩上がりの利益率

逆にインターナショナルサプラチェーンソリューションの収益率はかなり低いことも分かります。

実はこの次の年である2017年3月期に、これらの会社ののれん代を減損処理しています。

加えて、ロジスティクスについても買収時当初に見込んでいた利益率に届きそうにないということで、減損処理しています。

その結果、各社の利益率がどうなったかは開示されていないため分かりませんが、全社の営業利益率はその後右肩上がりで増えています。

また、積極的なM&Aとそれに続く減損処理で一時期16%程度まで下がった自己資本比率も、2021年には26%まで回復しています。

経営改善は一定の効果を上げたと言えるでしょう。

 

しかし2021年は出来すぎでしょう。

ロジスティクスは三洋電機ロジスティクスが前身なので、家電の製品物流が主流です。

コロナ禍の巣ごもり消費により需要増の恩恵を受けたと思われます。

またフォワーディングでは、他のフォワーダーと同様にコンテナ不足による海上輸送から航空輸送への切り替えによる大きな恩恵を受けているはずです。

2019、2020年の営業利益率5%が実力値だと思われます。

 

今後は家電の物流プラットフォーム事業と医薬品物流事業の成否がカギ

今後の成長のカギを握るのは、ロジスティクスの主力事業である家電の物流プラットフォームビジネスと、医薬品物流でしょう。

家電の物流プラットフォームビジネスは家電メーカーから量販店の物流センターへの輸送を共同化することが中心ですが、同様の事業はNECとパナソニックの物流子会社を買収した日本通運も、リコーと東芝の物流子会社を買収したSBSホールディングスも、三井倉庫よりも大きな規模で行っています。

三井倉庫は家電物流に留まらず、家具・住宅設備・コンビニの什器や冷蔵機器など、大型貨物の配送にも広げることを表明しています。

今後、どこまで横展開できるか注目です。

 

また三洋電機ロジスティクスが前身の三井倉庫ロジスティクスと、ソニーサプライチェーンソリューションが前身の三井倉庫サプライチェーンソリューションは、どう見ても事業領域が被るように見えます。

後者はソニーの物流企画や国際物流の入札など上流企画業務のノウハウがあるので、それを他の荷主にも横展開する方針のようですが、現実にはなかなか収益化が難しい事業です。

どのようにこの2社間で差別化していくのかも注目です。

 

医薬品物流についても、多くの有力物流会社が参入しています。

こちらも、どのように他社と差別化していくのか注目です。