三菱倉庫の売上高/事業内容/強みを物流業界経験者がわかりやすく解説します

2024年3月9日

物流会社売上ランキング2021年版 16位)

◆仕事や勉強の息抜きに。。。

不動産事業の比率が高い

三菱倉庫は1887年創業で、大手財閥系倉庫会社の中でも最も歴史のある会社です。

特徴的なのは、他の大手財閥系倉庫会社である三井倉庫住友倉庫と同じく、物流事業不動産事業の2つのセグメントに大きく分けられますが、不動産事業の比率が最も高いことです。

2021年3月期で比べると三井倉庫の4%住友倉庫の9%に対して、三菱倉庫は17%になっています。

利益率の高い不動産事業ですが、今後もこれに頼ってはいられないのは他の2社と同様です。

実際、2007年3月期の29%から年々不動産事業の比率は減少していますので、物流事業への経営資源のシフトは中長期的な課題と思われます。

 

日本における医薬品物流のパイオニアであり最大手

三菱倉庫の物流事業での強みは、何といっても医薬品物流です。

医薬品物流の3PL事業を開始したのは1983年で、日本におけるパイオニア的な位置づけです。

顧客は日本に進出した外資系メーカー中堅以下の国内メーカーが中心でした。

この事業が飛躍したのは2004年にアステラス製薬、当時の山之内製薬の物流を受託したのがきっかけです。

そして2007年、物流子会社を解散して物流をアウトソーシングした武田薬品が選んだのも三菱倉庫でした。

その後も国内外の有力医薬品メーカーの物流を受託して、医薬品物流といえば三菱倉庫が真っ先に頭に浮かぶくらい有名になっています。

 

医薬品物流でアウトソースが進んだ時代背景

医薬品卸業界の再編による物流要件の変化

それまで国内の大手医薬品メーカーは、自ら作った物流子会社でこれを行っていました。

医薬品メーカーの物流は工場から卸会社の物流拠点に納品するところまでですが、以前は地域ごとに有力卸が存在し、物流拠点もサービスレベル維持のため顧客の近くに分散していました。

そのため医薬品メーカーもすぐに卸会社に商品を供給できるように、物流拠点を各地に置き、それを物流子会社が管理していました。

コストよりも、物流サービス品質を優先していたといえます。

 

ところが1990年代から医薬品卸業界の再編が急激に進み、2008年にはメディパルホールディングス、アルフレッサホールディングス、スズケン、東邦ホールディングスの上位4社で90%のシェアを占めるまでになりました。

そうすると大型物流拠点に集約されますので、医薬品メーカーにとっての納品先は少なくなります。

また一か所への納品量も多くなるなど、物流オペレーションに求められる要件が変わってきました。

またその当時の医薬品業界は、政府の医療費抑制政策のために国内市場が伸び悩んでいた頃で、また世界市場では業界再編で巨大化した欧米のメガファーマが研究開発に巨費を投じ始めていた頃でした。

それに対抗するため、国内医薬品大手は事業の選択と集中を進め、物流をアウトソーシングするようになったのです。

2004年のアステラス製薬を皮切りに、武田薬品など多くの国内医薬品大手がそれに続きました。

 

改正薬事法による製造販売事業の解禁

この時期、医薬品物流のアウトソーシングが進んだのには、もう一つの時代背景があります。

2002年に成立した改正薬事法です。

これにより、医薬品メーカーが製造行為の一部をアウトソーシングできるようになったのです。

それまでは「製造」についての事業許可が必要でしたので、物流会社がその一部を請け負うことはほぼ不可能でしたが、「製造販売」の事業許可が新たにできたため、物流会社でもその気になれば誰でも製造販売の事業許可を取得し、メーカーから請け負えるようになったのです。

 

製造販売の事業内容には、包装取説の封入作業保管など、物流会社でも十分にできる業務が含まれます。

医薬品工場では製造工程の最後に包装→表示→保管があり、その後、市場出荷判定に合格したものが市場に出荷され流通します。

つまり、包装→表示→保管はまだ製造行為の最中と見なされ、簡単な業務に見えますが製造販売の事業許可が必要なのです。

 

以上のような2つの時代背景があり、2004年に三菱倉庫がアステラス製薬の物流業務を受託してから、医薬品メーカーによる物流アウトソーシングが進行したのです。

 

食品物流も今後の注力分野

このように医薬品物流については盤石な三菱倉庫ですが、食品物流についても注力領域であることも表明しています。

医薬品物流で培った正確なロット管理定温物流などのノウハウを生かせるということでしょう。

 

国際物流の成長戦略が今後の課題

一方で振るわないのが、国際物流の分野です。

下表は過去14年間にセグメント別売上高がどのくらい伸びたかをまとめたものですが、港湾運送国際運送は減少していることがわかります。

2007年3月期 2021年3月期 倍率
(倉庫) 26,506 55,954 2.11
(陸上運送) 26,258 48,214 1.84
(港湾運送) 22,217 21,332 0.96
(国際運送) 50,036 46,514 0.93
(その他) 10,431 7,239 0.69
物流事業 135,448 179,253 1.32
不動産事業 55,672 36,153 0.65

 

「国際運送」は海上・航空フォワーディングを中心とする国際複合輸送のことです。

海外現地法人が行っている倉庫業務や国内輸送業務は、「倉庫」と「陸上輸送」にそれぞれ含まれていますので、これがどのくらい伸びているのかは分かりません。

しかし、海外における日系物流会社の収益源はやはり国際複合輸送で、倉庫や陸上輸送はローカル物流会社との価格競争が厳しい分野です。

国際複合輸送は取り扱いボリュームがものをいう世界ですので、それを専業とするフォワーダーに一日の長があります。

そこを今後どのように補っていくのか、注目したいところです。