大塚倉庫の売上高/事業内容/強みを物流業界経験者がわかりやすく解説します
大塚倉庫のキーワードは共同物流、ID戦略、働き方改革の3つです。
順に見ていきましょう。
(物流会社売上ランキング2021年版 54位)
食品、医薬品、日用品を対象とする共同物流
大塚倉庫は1961年に大塚製薬工場の運輸倉庫部門から独立して誕生しました。
大塚製薬といえば飲料のオロナミンCやポカリスエットが有名ですが、医薬品では点滴などに使う輸液のトップメーカーです。
これらの液体の製品に加えて、同じ大塚グループのアース製薬の殺虫剤の物流を長年担ってきました。
2011年から営業方針を転換
大塚倉庫が変わったのは、創業者一族の大塚太郎現会長が2011年に社長に就任してからです。
その時点でもグループ外への外販比率は39%ありましたが、売上、利益ともに頭打ちになっていました。
新社長がまず始めにやったことは、採算の悪いビジネスから手を引くことです。
それまではとにかく量を追うために小規模な案件でも採算性度外視で取りにいっていたそうです。
そこで、採算性の悪い案件については適正料金収受をお願いし、それができない場合は手を引きました。
そして一旦新規開拓営業をストップして、マーケティングからやり直したのです。
業界二番手から四番手をターゲット
具体的には、業界二番手から四番手の荷主です。
業界最大手の荷主は単独でも物量が十分にあるため、毎日トラックを満載にできます。
このような会社に共同配送を持ち掛けても、他の荷主と積み合わせるために回り道をする分、かえってコストアップになってしまいます。
逆の特性を持つ商品を組み合わせる
また、荷主が扱っている商品の特性も考えました。
大塚倉庫が扱っているメインの商品はポカリスエットです。
夏によく売れるため、夏には広い保管スペースが必要で、配送トラックの台数も多くなります。
しかし冬には逆のことが起こるため、倉庫もトラックも遊ばせてしまいます。
そこで、冬に需要のピークがある商品を扱っている荷主をターゲットにしようという発想になります。
またポカリスエットは重い商品で、比重は約1,000kg/m3です。
トラックは大体280kg/m3の貨物を運ぶように設計されていますので、軽い貨物と組み合わせれば荷台スペースをムダなく活用できます。
冬に出荷のピークがあり軽い商品、かつ配送先がポカリスエットと同じ商品となると、例えば使い捨てカイロなどが絶好のターゲットになります。
このようにして、一旦営業をすべてやめて、マーケティングからやり直したのです。
その結果、それまで100円玉を100個集めようとしていた営業が、10,000円のマグロを一本釣りするスタイルに変わり、格段に効率が良くなったとのことです。
2010年に39%あった外販比率は、不採算な顧客から手を引くことによって一旦下がったものの、2017年には59%、売上では2倍以上になりました。
食品、医薬品、日用品にターゲットを絞り、業界別にメーカー物流を共同化する共同プラットフォーム構想を掲げています。
ID運輸とID倉庫でオペレーションをデータ化
大塚倉庫では、この共同プラットフォーム構想を実現するための手段として、ID運輸とID倉庫を掲げています。
「ID」は故野村監督のID野球からもじったそうです。
ID運輸
ID運輸とは、配送センターで配送状況が分かるよう見える化することと、配車作業を自動化することです。
大塚倉庫は自社ではトラックをほとんど持っておらず、物流センターからの配送は地域ごとに協力会社に任せています。
自社で配車をするのであればこのような仕組み自体はそう珍しいことではありませんが、協力会社のためにシステム開発しているところに、大塚倉庫の企業姿勢が表れていると言えます。
この配車システムも第一弾を開発した2015年ごろは、人手作業を助けるための半自動システムだったようですが、今ではAIを活用した全自動のシステムになっているようです。
ID倉庫
ID倉庫とは、倉庫作業のペーパーレス化と、誰でも同じ品質の作業ができるよう支援するためのシステムです。
倉庫では入荷や出荷をスタッフに指示するための大量の指示書がありますが、これが異業界から来た新社長には時代遅れに見えたようです。
これをiPadに変えてペーパーレス化しました。
これには作業記録がすべてデータとして残るという副次効果もあります。
非効率な作業をあぶり出してカイゼンができますし、リアルタイムでモニタリングすることによって暇なスタッフを忙しい工程に応援に行かせるというレイバーコントロールにも使えます。
また、iPadの画面上で単に作業指示が見えるようにするだけでなく、商品の荷姿を写真で示したり、よく間違える注意点も一緒に表示するなどして、初心者でもベテランと同じ作業を短期間でできるようにするための仕組みも取り入れています。
物流業界に限らず今後益々人手不足が深刻化する中、初心者もしくは短時間のアルバイトでもすぐに戦力化できるような仕組みは有用です。
今後も見据えたID戦略と言えます。
本気の働き方改革
働き方改革はどこの会社でもトピックになっていますが、大塚倉庫は本気です。
ここでも異業界から来た新社長(現会長)の、先入観のなさが生きています。
トラック待機時間の削減
大きな物流センターになると、朝来るとトラックが何十台も並んでいることがよくあります。
前日の夜から並んで待っているトラックも多くあります。
列が解消される昼ぐらいに来ればいいのにと思いますが、それでは午後の仕事に間に合わなくなってしまうため、一晩トラックで過ごすことを余儀なくされているのです。
これが新社長には異様に映り、ネットでの予約制にしました。
総合病院で早いもの順に診察する方法から、歯医者のような予約制にしたのです。
その結果、待機時間が大幅に減り、家族と過ごす時間も増えたそうです。
今では、スタートアップ企業も同じようなサービスを展開していますが、大塚倉庫では業界全体にこれを浸透させようとしています。
大塚倉庫からすると卸売会社は納入先で、そこでの待機時間は自社の生産性にも直結します。
このようなトラックの待機時間を解消しないことには生産性が上がらず、ドライバーの給与も上がらず、益々なり手が少なくなってしまいます。
そうならないように、業界全体に働きかけているのです。
間接部門の助け合い
またオフィススタッフでも月200時間も残業している人がいて、新社長はまたもや疑問を持ちました。
周囲の人は誰も手伝おうとしません。
悪気があってそうしているわけではなく、部屋が分かれているためそのような人がいることに気づかない人もいました。
そこで壁を全部取り去って大部屋にしたり、忙しい部署があればハッピを着て
「私たちはテンパっている」
ということが分かるようにしました。
その結果、今では皆積極的に助け合う文化になったそうです。
精鋭揃いの倉庫作業の特別部隊
また、大塚グループの創業地は徳島なのですが、そこにはAチームという倉庫作業の特別部隊がいて、テンパっている倉庫があれば全国どこでも出動できるようになっているそうです。
しかもエース級の社員を集めて。
このようにオフィスでも現場でも応援し合って助け合うことで、一部の人だけが過重労働になってしまうことを防げる他、会社全体のチームワークを高める効果もあるようです。
まとめ:大塚太郎会長のリーダーシップで斬新的な取り組みを推進中
大塚倉庫は大塚グループの豊富なベースカーゴを武器に、食品、医薬品、日用品の業界でのメーカー物流の共同プラットフォームを構築しようとしています。
やみくもに量を追うのではなく、綿密なマーケティング戦略に基づき、本当にメリットがある貨物だけを集中的に攻める戦略です。
そのために、ID運輸やID倉庫というキャッチフレーズでIT化も積極的に進めています。
創業家一族の大塚太郎会長のリーダーシップで、物流業界の古いしきたりを次々に打ち破り、社名からはイメージできない斬新な発想を持った物流会社だと思います。
働き方改革の面でも物流業界では進歩的です。