近鉄エクスプレスの売上高/事業内容/強みを物流業界経験者がわかりやすく解説します

2024年3月9日

近鉄エクスプレスのキーワードはフォワーディングAPLロジスティクス中国の3つです。

順に見ていきましょう。

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日本の御三家の一角であるフォワーディング事業

フォワーディングの利益の源泉は混載差益とボリュームディスカウント

近鉄エクスプレスのルーツは、1948年に近畿日本鉄道の一部門として始まった国際貨物部門です。

その後、1970年に近鉄航空貨物株式会社として独立し、1989年に現在の社名になっています。

業界ではKWE(Kintetsu Worldwide Expressとして知られています。

 

日本のフォワーディング業界では日本通運郵船ロジスティクスとともに御三家と呼ばれています。

フォワーディングをする業者をフォワーダーと言いますが、フォワーダーは利用航空運送事業者とか航空貨物混載業者とかコンソリデーターとかとも呼ばれます。

 

トラックにしろ、船にしろ、航空機にしろ、輸送業者は自分たちでそれらのアセットを持っている輸送業者と持っていない輸送業者とに分かれます。

持っていない輸送業者を利用運送業者と言いますが、フォワーダーはその一種です。

 

ですが、フォワーダーの本質は混載差益を得ることです。

どの輸送手段でも同じですが、輸送料金は重さだけとか、容積だけとかでは決まりません。

同じ1kgの貨物でも水から1リットルの容積ですが、スナック菓子だとその10倍くらいあるかもしれません。

重さだけで輸送料金を決めてしまうと、スナック菓子のようなものばかり載せたのでは赤字になってしまうからです。

ですので、1m3(=1,000リットル)を何kgと見なすかを予め決めておきます。

これを容積重量と呼びます。

そして、実重量と容積重量を比べて、大きい方を基準に運賃を決めるのです。

航空機の場合は、通常、1m3を167kgと見なします。

容積重量の換算方法が違うのはなぜ?トラック/航空/海上貨物別に解説

 

勘の良い人ならお分かりのように、このやり方だと軽い貨物と重い貨物をうまく組み合わせて、全体の比重が167kg/m3に近くなるようにすれば、ファワーダーの利益が大きくなります。

これを混載差益と言います。

このようにフォワーダーは多くの顧客から貨物を集めて、まとめてJALやANAなどの航空会社に輸送を委託するのですが、多く貨物を集められるほど航空会社からボリュームディスカウントを得られます。

このディスカウントが大きいほど、競争力のある料金を顧客に出すことができます。

このようにフォワーダーは混載差益ボリュームディスカウントから利益を得ています。

 

エレクトロニクス関連の航空フォワーディングに特に強み

さて、KWEは御三家の中でも特にエレクトロニクス関連の輸送に強いと言われています。

しかし、日本のエレクトロニクス業は昔ほどの隆盛はなくなってしまったため、徐々に自動車関連メディカル関連を増やしているようです。

また、御三家の中では航空フォワーディングの比率が最も高く、エクスプレスの名に恥じないシェアを誇っています。

航空便は緊急輸送で海上輸送の代替として使われるケースが多いため、最近のコロナ禍のように市況が混乱してくると火事場泥棒的に利益が増えるという面がある反面、業績が市況の影響を受けやすいというマイナス面もあります。

 

KWEは2019年に発表した長期ビジョンでは、規模を追うことで世界のトップ10に入るという目標を鮮明にしています。

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フォワーディングはスケールメリットがあるほど有利、逆にそれがないと淘汰されてしまう世界なので、分かりやすい正直な目標だと思います。

 

自動車業界やリテール業界に強いAPLロジスティクスの買収

調達物流管理システムに特に強み

KWEは2015年にシンガポールのAPLロジスティクスを買収しました。

APLは元々は米国発祥の船社ですが、1997年にシンガポールのNOLという船社に買収されました。

そのNOLが2015年に経営危機に陥った際、傘下のAPLロジスティクスをKWEが買収したわけです。

 

このように歴史に翻弄されてきた会社ですが、APLLは自動車業界リテール業界の物流に強みを持っています。

特にリテール業界での調達物流管理システムは、世界でも指折りの競争力があります。

 

1979年に米中が国交を結んだ後、中国から米国への消費財の輸入が急増しました。

スーパーやアパレルブランドなどは、一社で中国に沢山の製造委託先があります。

中には余り物量が多くない委託先もありますが、その場合には各委託先でフルコンテナにまとまるのを待つよりも、複数の委託先の商品を中国の倉庫でまとめてフルコンテナにする方がリードタイムを短くできます。

これをバイヤーズコンソリデーションといいます。

このように言うと簡単に聞こえますが、保税倉庫でそれを行うには、物流業者にもそれなりのノウハウが必要です。

この他にも、スケジュール管理や、製品の検品貿易書類のチェック等、中国の物流業者にやってもらいたいことは結構あります。

 

APLLは、これらの業務をシステムを含めてパッケージで提供したのです。

これはVendor Management System、またはOrder Management Systemと呼ばれます。

2000年前後からは米国の荷主、中国の製造委託先、米中の物流業者が情報をリアルタイムで共有できるWebベースのシステムを開発して利便性を高めました。

このシステム+オペレーションには競争力があり、ライバルは世界にも数社しかいません。

 

シナジー創出が課題

このように競争力のある事業をやっているAPLLですが、KWEとは事業ポートフォリオが全く異なります。

KWEは航空フォワーディングで6以上、海上フォワーディングも含めると9近くになりますが、APLLはロジスティクス(倉庫)が7近く、残りのほとんどは海上フォワーディングで、航空フォワーディングはほとんどありません。

そのような中でどのようなシナジーを出していくのか、今後の課題だと思います。

 

先行者利益を享受する中国事業

先行者利益が得られやすい新興国

KWEの中国進出は早く1969年に香港1974年に北京に進出しています。

その後、経済成長の波に乗って、今では100拠点以上50以上の倉庫ネットワークがあります。

 

このような新興国は、物流業者にとって先行者利益が得られやすいと言えます。

特にKWEのように、業務に通関が絡んでいれば尚更です。

規則はコロコロ変わりますし、その規則の解釈も曖昧だからです。

沢山通関をして経験を積むことも大事ですが、税関員との人的つながりが濃くなることが大きいのです。

 

日本から中国に進出してくる顧客は、曖昧な規則で分からないことが沢山あります。

そのためにJETROなどのアドバイザーも現地にいて教えてくれますが、こと物流の話しになると、日頃からいろんな案件に対応している物流業者には叶いません。

早く進出して沢山の経験を積んでいる物流業者ほど頼られ、仕事も付いてくるのです。

 

物流園区ソリューションは利益の源泉

その上、中国は通関に絡んだ物流ソリューションの提案余地が多い国です。

その代表的な例が物流園区を利用したソリューションです。

 

物流園区というのは保税区の発展版です。

保税区というのは大体どこの国にもあるのですが、できることとできないことは国によって異なります。

中国の保税区でできないことは輸出増値税の還付です。

通常の海上輸出では、コンテナなどに入った貨物を港のコンテナヤードに移動させて、その間に輸出通関を行います。

このコンテナヤードは保税エリアです。

保税エリアですが、一時的に留め置く場所です。

 

保税区というのはもう少し広い概念で、そこに何か月も貨物を保管することができます。

なぜそのようなことをするかというと、外国の会社に貨物の所有権を移転できるからです。

日本でも中国でも、その国の中に登記していない外国の会社は、商品の売買をして、商品をその国に保管しておくことは許されません。

保税区内はその国でないという扱いなので、外国の会社が商品を買って、保管しておくことができるのです。

 

また、日本で商品を買ったら消費税を取られますが、外国の会社が保税区で買ったら消費税は取られません。

中国では消費税ではなく増値税という名称ですが、仕組み自体は同じです。

商品を仕入れて売るような商社の場合には、商品を売る際に顧客から預かる増値税から、商品を仕入れる際に支払った増値税を引いた額を国に納めます。

 

ところが、保税区の外国企業に売った場合には増値税が0%ですので、商品を仕入れる際に支払った増値税を引くとマイナスになります。

ということは国に支払うのではなく、還付してもらえるはずです。

ところが、中国の保税区ではこの増値税の還付は、保税区に入れた時にはできなくて、その商品が実際に輸出されないと還付されません。

 

こうなると、中国の生産委託先にとっては折角保税区内の外国企業に商品を納品したのに、いつ代金を支払ってもらえるのか分かりません。

この問題を解消するために、中国は新しく物流園区を設けました。

物流園区であれば、その中の外国企業に商品を納入した時に、増値税が還付されるようにしたのです。

 

KWEは7か所の保税区に倉庫を構え、中でも最も大きな上海外高橋保税区には約70,000m2、その中にある物流園区には16,000 m2の倉庫を持っています。

中国に進出している外国企業は、輸出入に絡んだ商売をしている会社が大部分です。

その物流商流には、保税区や物流園区を活用しないと実現できないビジネスモデルが沢山ありますので、保税区や物流園区に会社や倉庫を持っているメリットは大です。

増してや、KWEのように日系トップクラスの保税倉庫面積で、通関実績も豊富、海上/航空フォワーディングの大手で仕入力もあるとなれば、極めて有利な戦いができるのです。

 

まとめ:フォワーディングでグローバルTOP10に入るための戦略がカギ

近鉄エクスプレス日本通運、郵船ロジスティクスと共に、日系フォワーダーTOP3の一角を占めます。

TOP3の中でも特に航空フォワーディングの比重が高く、業界ではエレクトロニクス自動車メディカルに強みを持っています。

海外では中国が稼ぎ頭で、世界のフォワーダーが鎬を削る同国においても、航空フォワーディングではTOP10入りしています。

2015年にはKWEが手薄だったサプライチェーンソリューションシステムロジスティクス事業に強みを持つAPLロジスティクスを買収しており、今後どのようなシナジー効果を出していくのか注目です。