SGホールディングスの売上高/事業内容/強みを物流業界経験者がわかりやすく解説します

2024年3月9日

SGホールディングスのキーワードは、デリバリー事業ロジスティクス事業の2つです。

どういうことか、順に見ていきましょう。

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宅配便ネットワークを強みとするデリバリー事業

法人向けに強い佐川急便

宅配便で有名な佐川急便を知らない人は日本ではいないと思いますが、宅配便を開始したのは意外と遅く、1998年です。

その後、2006年に持ち株会社SGホールディングスを設立して、佐川急便などの事業会社が傘下に入りました。

そのような経緯がありますので、事業会社の中でも佐川急便がダントツに大きく、デリバリー事業の中核を担っています。

引っ越しなどを担っている佐川ムービングもデリバリー事業の一角で、家具や家電などの大物配送を担っています。

配送拠点は佐川急便も佐川ムービングも同じ場所をシェアしていますので、小さな貨物から大きな貨物までワンストップで対応できるようになっています。

 

宅配便というとヤマト佐川日本郵政の3強ですが、佐川はどちらかというと法人向けに強いイメージです。

その特徴は配送拠点数に現れています。

ヤマトは全国に約7,000か所、日本郵政は約4,000か所あるのに対し、佐川は約400か所しかありません。

個人宅の方が会社より散らばっていますので、個人宅を得意とするヤマトは拠点数が多くなります。

 

売上至上主義から利益重視主義に転換

法人向けは少ない拠点数で大口の注文を取れるメリットはありますが、その分、値引き圧力は高くなります。

その最たる例がアマゾンです。

佐川にとってアマゾンは大口顧客でしたが、サービスレベルや値引き要請に耐えられず2013年に取引を中止しました。

実は佐川の収益性管理能力は業界トップレベルと言われていて、細やかな原価管理に基づいた価格交渉時の厳密なガイドラインがあります。

それに基づけば、いかに大口顧客のアマゾンの要請でも断らざるを得なかったのでしょう。

 

2016年に日立物流と資本業務提携するも2020年に解消

ちなみに、アマゾンを蹴ったSGHDは新たな収益源として企業間物流に注目しました。

そして、その分野大手の日立物流と2016年に資本業務提携しています。

企業向けの3PL大手で物流センター業務に強い日立物流と、輸配送に強いSGHDの組み合わせは理想的と思われました。

数年以内の経営統合を目指す計画もありました。

実際に両社による共同営業や、お互いが持つアセットの有効活用などで、それなりの効果は出たようです。

 

ところが、2020年にこの計画は白紙になりました。

これには様々な憶測があります。

コロナ禍の巣ごもり需要により宅配便の業績が好調なSGHDが、国内輸送網の深耕に注力したかったのに対して、日立物流はアジア物流を伸ばしたかったという思惑の違い。

資本提携した2016年と同じ年にSGHDは株式を上場しているのですが、その目的は将来、株式交換により日立物流と経営統合するために、自社の時価総額を知りたかった。

しかし当時SGHDの時価総額が日立物流の2くらいだったのが、2020年には5近くになり、日立物流側が完全に飲み込まれることに難色を示した等。

 

参入障壁が高い宅配便事業

いずれにせよ、SGHDは強いデリバリー事業を最大限生かす道を選んだのでしょう。

トラックによる運送事業は、船舶や航空機による運送事業と比較して、事業許可や資本力の点で格段に参入障壁は低いはずです。

しかし宅配便事業は別で、アマゾンがデリバリープロバイダを組織して自社配送網を構築しようとしていますが、対抗できる可能性があるのはここくらいでしょう。

それくらい、資本力とノウハウが必要です。

いかに日立物流が3PLの大手で、優良荷主を多く抱えているとしても、宅配便事業の雄からすれば、3PLは参入障壁の低いリスクの大きな事業に見えるのかもしれません。

それくらい強いデリバリー事業なのです。

 

宅配便事業を活かしたリテール中心のロジスティクス事業

宅配便ネットワークで差別化

SGHDでロジスティクス事業を担う事業会社は佐川グルーバルロジスティクス(SGL)です。

SGLの顧客は、中小のEコマース事業者アパレル事業者が中心です。

その点、日立物流の顧客層とは異なります。

 

これには合理性があります。

SGLは佐川流通センター(SRC)と呼ばれる「ロジスティクスセンター兼トラックターミナル」を、全国76か所に展開しています。

そこでは顧客の在庫を保管しているSGLのロジステイクスセンターのすぐ下に、佐川急便のトラックターミナルがあるため効率が良いのです。

もし、他の3PL事業者が物流センターを運営していて、佐川急便の宅配便を利用している場合、物流センターから佐川のトラックターミナルまでトラック輸送しないといけません。

これが一体化されていると、このトラック輸送が減らせるだけでなく、締切時間も遅くできて都合が良いのです。

 

SGLはこの仕組みを更に発展させようとしています。

その中心となるのが、江東区に2020年にオープンしたXフロンティアです。

佐川急便は全国に400強の配送拠点がありますが、そのうちの数十か所は幹線便の中継機能を備えた大型の中継センターになっています。

Xフロンティアはその大型の中継センター5か所を集約した、超大型中継センターです。

 

それだけでなく、SRCのようにロジスティクスセンターも併設しています。

しかもこのロジスティクスセンターのあり方も発展させています。

SRCは複数の顧客のマルチテナント型ロジスティクスセンターですが、顧客ごとにスペースは区切られています

異なる顧客の在庫が混じらないように保管しているのです。

 

徹底的な自動化でプラットフォーム化を狙う

ところがXフロンティアでは同じ場所に保管します。

そこで働いている従業員は、A社の貨物だろうが、B社の貨物だろうが区別なく処理します。

作業の手順も同じです。

つまり作業をSGLがベストと考えるやり方にして、顧客がそのプラットフォームに乗るのです。

 

このようにするのには理由があります。

ほぼすべての作業が自動化されているのです。

完全自動化ではありませんが、商品が保管してある棚を下から持ち上げて作業者の場所まで運ぶロボットが走り回っていたり、商品のサイズに合わせて無駄なくオーダーメイドのように段ボールで梱包してくれる自動梱包機などが導入されています。

貨物はロボットで扱えるサイズ以下に限られるという制約はありますが、その範囲内であればほぼ自動で入出荷を処理できる仕組みが導入されています。

ここでは日立物流の技術やノウハウが生かされています。

 

宅配便ネットワークを活かしたスマート・インポート

国際物流分野では、「スマート・インポート」と呼ぶ仕組みを推進しています。

アパレル製品の多くはアジアで生産されています。

各生産委託先から別々にフルコンテナに仕立てて、日本の物流センターに海上輸送し、センター内で店舗別に仕分けて配送するのが通常の流れです。

スマート・インポートでは、アジアにあるSGLの物流センターに複数の生産委託先からの商品納品してもらい、そこで各店舗別に仕分けて、佐川急便の送り状まで貼ってしまいます。

そしてフルコンテナに仕立てて海上輸送し、日本の物流センターをスキップして佐川急便の中継センターへ直接送ります。

そうすることにより、日本の物流センターでかかるコストがゼロになるというわけです。

強固な国内小口配送網がある宅配便会社ならではのサービスで、他社には真似できません。

 

まとめ:高収益の宅配便をバックにロジスティクス事業を伸ばせるか

SGホールディングスは、その中核事業会社である佐川急便の強固な宅配便ネットワークを最大限に活用して、もう一つの成長分野であるロジスティクス事業を伸ばそうとしています。

ロジスティクス事業とは3PLのことです。

今後益々深刻化すると思われる人手不足にも、2020年にオープンした次世代施設であるXフロンティアに世界中から一流の自動化設備をかき集めるなど、次々と先手を打っています。

アマゾン系デリバリープロバイダの台頭で宅配便の垂直統合モデルにも陰りは見られますが、まだまだ盤石な宅配便事業から得られる豊富なキャッシュフローを武器に、益々高い参入障壁を築いていくと思われます。