日新の売上高/事業内容/強みを物流業界経験者がわかりやすく解説します
日新は国際複合一貫輸送のパイオニア
日新は1938年創業で、港湾運送業を源流とする国際物流会社です。
陸運、海運、空運を組み合わせた国際複合一貫輸送は、今やどこの国際物流会社でも提供しているサービスですが、日本では1968年に日新が行ったのが初と言われています。
今では海外23ヶ国に159拠点のネットワークがあります。
(物流会社売上ランキング2021年版 21位)
日新は中国物流でもパイオニア
このように国際物流のパイオニア的な存在なので、他社に先駆けて海外進出することが多く、特に中国では圧倒的な存在感がありました。
日本の物流会社の中国進出ラッシュが起きたのは2000年に入ってからですが、その時には既に日本通運、山九、日新の3社がかなりのシェアを抑えていました。
この3社の中でも最も中国との関わりが早かったのは日新で、日中国交正常化より遥か前の1955年に東京で開催された中国展覧会向けの展示品輸送を行ったのが始まりです。
本格的に中国本土に進出したのは1992年ですが、その後の10年間で100億円規模の売上にまで成長しています。
売上の60%が国際物流
2000年代初頭に100億円だった中国の売上は、今はどこまで伸びているのでしょうか?
はっきりしたデータがありませんので、推測してみましょう。
ウィキペディアによると全体売上の60%が国際物流であるとしています。
ところが、2021年3月期の決算では500億円、全体売上の割合にすると32%しか海外物流がありません。
2021年3月決算説明会資料から抜粋
なぜ2倍近くも違うのでしょうか?
それを探るために過去の決算資料を遡ってみると、2013年3月期の決算資料に下記のデータが見つかりました。
2013年3月決算説明会資料より抜粋
これによると全体の73.3%が物流事業で、そのうちの66%が海外の売上になっています。
全体売上からの比率では約50%が海外物流事業の売上となります。
ウィキペディアに載っている国際物流60%は、ここから来ているのだと思われます。
ここで、海外物流と国際物流の定義を確認してみる必要がありそうです。
2014年3月の決算資料に下記のデータがありました。
2014年3月決算説明会資料より抜粋
ここには2013年度の海外現地法人の売上が350億円だったことが示されています。
2013年度の物流事業の売上は1,284億円でしたので、日本以外の売上(=国際物流の売上)は850億円です。
そのうちの350億円が海外現法の売上ですので、500億円はフォワーディングの売上のうち日本の売上として計上されている分と考えられます。
つまり、ウィキペディアに載っている国際物流の売上は、海外現法の売上+今は日本の売上として計上しているフォーワーディングの売上が含まれていると考えられます。
日新の決算資料では、2013年度までは国際物流のデータを記載していましたが、2014年度からは海外物流のデータを記載しています。
恐らく、2013年までは海外が儲かりすぎていたため、バランスを取るため2014年からは日本に多く利益配分するようにしたのでしょう。
その結果、2019年度の営業利益率を日本と海外で比べてみると、
日本:2.5%
海外:3.1%
と、ほぼ同じになっています。
海外に駐在する日本人の給与を日本本社が補填してやっと海外現法の収支がトントンになる物流会社が多い中で、日新の海外事業の強さはさすが国際物流会社の草分けと言えるでしょう。
今後は危険品物流と食品物流で差別化
産業別で見ると、従来は自動車や電機産業の国際化に乗って成長してきた日新ですが、近年はそれに加えて危険品や食品で差別化しようとしています。
日本ではもともと石油化学メーカーの物流を手掛けてきたため、それをベースカーゴとした共同物流を、また中国やアセアンでもそのノウハウを生かした危険品物流ネットワークを拡充していくことを中期計画で表明しています。
食品は売上規模は大きくないものの、従来から注力している分野です。
中国では2000年に日系物流会社としては初めてコールドチェーン事業に参入して、ファーストフードチェーン向けの保管/輸送サービスを開始しています。
タイでは2011年に横浜冷凍との合弁で食品向けのコールドチェーンを担う会社を立ち上げています。
また日本発でタイやシンガポール向けに、リーファーコンテナを使った食品専用の小口混載サービスを2013年に開始して、なかなか物量がまとまらない日本食品の輸出需要を取り込もうとしています。
自動車、電機、化学品と比べると物流コスト負担能力が低い食品分野で、サプライチェーンの足をどこまで伸ばすことができるか注目したいところです。
旅行事業のテコ入れが課題
また日新の事業セグメントには旅行事業があり、2019年3月期には全体の29%の売上がありました。
法人旅行の分野では国内トップクラスのシェアでしたがコロナ禍で打撃を受け、2021年3月期には全体売上の4%まで激減しています。
このテコ入れも今後の大きな課題でしょう。