センコーグループHDの売上高/事業内容/強みを物流業界経験者がわかりやすく解説します
センコーグループホールディングスのキーワードは、化学物流、流通ロジスティクス、商社事業の3つです。
順に見ていきましょう。
(物流会社売上ランキング2021年版 8位)
(3PL世界売上ランキング2021年版 20位)
祖業であり競争力も高い化学物流
旧日窒コンツェルンの顧客が中心
センコーグループホールディングスの歴史は古く、第一次世界大戦中の1916年に日本窒素肥料の専属物流会社として誕生した富田商会を源流としています。
そのため、創業当初は化学メーカー向けに工場の調達物流、工場内物流、製品輸送などのメーカー物流を担っていました。
その流れは今も続いていて、旧日窒コンツェルンの流れを汲むチッソ、旭化成、積水化学工業、積水ハウスといった化学・住宅メーカーが大荷主となっています。
建材と石化品の共同物流プラットフォームを目指す
商材としては大きく2つに分けられます。
1つ目は建材です。
建材物流は、形状が特殊で積載効率が悪かったり、建設現場への納入の時間指定が厳しかったりするため、一般の物流会社からはどちらかというと敬遠される分野です。
そのような厳しい分野で、積水化学工業や旭化成ホームズなどの顧客にほぼ独占的にサービスを提供してきたため、高い参入障壁が築けていると考えられます。
たかが建材を運ぶだけと思いますが、そこには専用の車両が必要だったり、荷卸しや配車にノウハウが必要だったりと、一朝一夕には追い付けないノウハウがあるのです。
2つ目は石化品です。
アンモニア等の原料、モノマーやポリマー等の中間品、それらから合成される合成樹脂製品までの工場発着の輸送を担います。
これらの物流も専用のシャーシやコンテナ等の機材が必要だったり、荷扱いにノウハウが必要だったり、帰り荷の確保が必要だったりとそれなりのノウハウが必要な分野です。
またそれ以上に、財閥内の物流会社は優先的に起用される文化が日本では相変わらず根強いため、旧日窒コンツェルンの仕事がなくなることはないと思われ、安定的なビジネスでしょう。
これら大手荷主の貨物量をベースカーゴとして、業界内で共同物流プラットフォームを構築することも志向しているようです。
1985年に参入したチェーンストア物流が柱の流通ロジスティクス
チェーンストア向けの専用物流センター運営が柱
スーパーやドラッグストアなどのチェーンストアでは、今や一括物流が主流です。
昔は各仕入先が店舗まで納品していました。
しかし、それでは1日に何十台もトラックが各店舗に到着することになり、店員も大変ですし、近隣にも迷惑です。
仕入先も、少量ずつ何か所も配達して回るのは面倒です。
そのため、チェーンストア、または卸会社や物流会社が代理で専用の物流センターを作り、仕入れ先からそこへ一括納品してもらうことにしました。
そうすると、仕入れ先としてもある程度は物流コストが抑えられますので、その分を商品価格を下げる原資にできます。
その値下げ分で、専用物流センターの建設費や人件費などをペイするというのが基本的な考え方です。
センコーはこのようなチェーンストア物流に1985年に参入しています。
そして今ではイオンの国内外の物流センターを担う数社の中の1社にまでなっています。
ランテック買収で低温物流を強化
またスーパーやドラッグストア向け等のチェーンストアでは、冷凍品や冷蔵品も取り扱います。
これらの物流は低温物流と言われますが、この分野を強化するために2014年に低温食品輸送を得意とするランテックを子会社化しました。
スーパーやドラッグストアとしては、常温、冷蔵、冷凍品の所謂3温度帯の商品はまとめて物流センターに在庫しておいて、まとめて店舗に配送してくれる方がありがたいのは確かです。
ランテックを傘下に収めたことは、3温度帯の物流センタービジネスの獲得を、より優位に進めるための布石と思われます。
アジアでも3温度帯物流を展開
センコーはタイとミャンマーで3温度帯の物流事業を行っていて、ランテックの設備や技術が導入されているようです。
特にタイではタイスキのレストランで有名なMKレストランと合弁で事業を行っています。
低温物流は経済発展に伴って需要が急拡大しますので、今後の発展が予想されます。
アパレル物流にも注力
またセンコーでは、アパレル物流にも注力しています。
2009年ごろから百貨店納品代行業務大手の東京納品代行や、エイチ・ツー・オー リテイリングやオンワードホールディングスの物流子会社を子会社化しています。
アパレルはアジアに多くの生産拠点がありますので、センコーがアジアに持つ物流センターに製品を集め、アジアでできる作業はできるだけアジアでやるオペレーションを進めています。
日本側のアパレルの物流センターも自分たちで抑えることで、アジアからの物流をシームレスにつないで、情報も一元化できるようになります。
センコーはIT力も物流業界ではトップクラスです。
今後、海上輸送のフォワーディングで仕入力を強化できれば、アパレル物流のビッグプレーヤーになる可能性があります。
物流事業とのシナジーを活かす商社事業
商社機能を持ちたいと考えている物流会社は結構あります。
海外でよくある理由は、現地に会社がない顧客を取り込める可能性があることです。
例えば日本からタイの会社に商品を販売する場合、その会社がタイに法人がなければ、注文のたびに日本から輸出することになります。
海上輸送だと2~3週間かかるでしょう。
これはタイに法人がないと、タイ国内に在庫を持てないためです。
そのような場合に物流会社のタイ法人が商社機能のビジネスライセンスをタイで持っていれば、顧客の代わりにタイ国内の自社の倉庫に自社名義で在庫を持つことができます。
顧客にとっても、物流会社にとってもハッピーでWin-Winなのです。
また、顧客がタイ国内の製造委託先からアパレル製品を日本に輸入する場合、普通はタイから日本へ海上輸送します。
製造委託先が複数社ある場合は、それぞれが輸出者となって別々にコンテナで輸送するのが普通です。
ところが、日本の横浜港に送られてきた商品を、大阪や博多でも売りたい場合には、横浜から大阪や博多へ送るとなると輸送費が馬鹿になりません。
そうすると、タイ国内で横浜向け、大阪向け、博多向けに仕分けて送りたくなってきます。
そのような時、タイの物流会社が商社機能を持っていれば、一旦その物流会社がそれぞれの製造委託会社から商品を買い取ることができます。
買い取ってしまえば、違う製造委託先の商品を日本の顧客の指示に基づいて、これは横浜行き、これは大阪行きというように別々のコンテナに積めて送ることができます。
物流会社が買い取らないで、それぞれ別の製造会社所有のままだと、このような自由な組み換えができないのです。
このように物流会社の海外現地法人では、商社機能があると顧客へ提供するソリューションの幅が広がります。
センコーの海外現地法人でも、アパレル会社やチェーンストア向けに同様のサービスを提供しているものと思われます。
しかし、ここでいうセンコーの商社機能はそれよりもっと進んだもので、実際に卸売業を日本で展開しています。
具体的には、2009年に買収した丸藤は生協向け生活雑貨、2011年に買収したスマイルは包装資材、2013年に買収したアストは紙製品・紙原料などの専門商社です。
ここでの狙いは、センコーの物流ネットワークに乗せて、これら商社の物流を効率良く運営し、同業他社に対して優位性を持つことだと思われます。
その狙いが当たってるのか、この分野の売上は全体の3割弱を占めるまでになっています。
しかし、2021年度は減収となった模様です。
コロナによる国際輸送費用の急騰による仕入れコストの上昇を吸収できなかったのでしょうか。
まとめ:戦略に一貫性があり注目
祖業は化学物流ですが、今ではチェーンストア向け物流やアパレル物流などを担う流通ロジスティクス事業が売上の半分弱を占めるまでになっています。
その流通ロジスティクス事業を強化するために、低温輸送に強いランテックを買収してチェーンストア向け3温度帯物流を強化したり、百貨店やアパレル会社の物流子会社を買収してアパレル物流を強化したりと、戦略の一貫性が見られます。
また海外事業でもタイやミャンマーで低温物流を大々的に展開するなど、ここでも戦略の一貫性が見られます。
またここ10年ほどで全体売上の3割を占めるまで成長した商社事業を持つことは、他の物流会社にはないユニークな点だと思います。
今後、商社事業と物流事業がどのようなシナジーを発揮していくのか注目です。