物流拠点集約で安全在庫はどれくらい減るのか?は一概には言えない理由
「複数の倉庫を1つに集約して、在庫削減と物流コスト削減を同時達成しましょう!」
物流会社や物流コンサルタントがよく使う営業トークです。
しかし、倉庫集約によって本当に安全在庫は削減できるのでしょうか?
また、どのくらい削減できるのでしょうか?
「それはケースバイケースです。データをいただければ分析します!」
でもデータを出したのに、何日待っても何%削減できるという明確な回答はありません。
営業マンも困っているのです。
これもスーパーのレジ待ち問題と同じで、「平均」だけ見ていても解決できません。
「分散」で考える必要があります。
【分散の重要性がわかる具体例!】スーパーの一列待ちの効果を検証する
どういうことか見ていきましょう。
安全在庫を求める時の注意点
物流センターで持つべき安全在庫は、ごくごく簡単には次式で計算できます。
安全在庫=標準偏差*安全係数
【安全在庫の計算式】標準偏差と安全係数から計算する式をわかりやすく
これには少し補足が必要です。
安全在庫は商品アイテムごとに、厳密に言うとSKU(Stock Keeping Unit)ごとに計算しないと意味がありません。
先の式にある「標準偏差」とは、各商品アイテムごとの毎日の需要数(売上数)を過去何日分か集めたとして、その複数のデータから計算した標準偏差ということです。
例えば、商品Aの過去30日間の需要が
10,12,20,15 …. ,8
だったとすれば、このデータから標準偏差を計算します。
つまり、商品アイテムごとに標準偏差を求め、それに安全係数をかけたものが安全在庫になります。
問題を定式化する
まずは問題を定式化します。
物流センターがN個あり、これを1か所に集約するケースを考えます。
N個の物流センターを物流センター1、物流センター2、、、物流センターNとします。
またすべての物流センターは同じ商品を在庫しているとし、そのうちの商品Aについてだけ考えると、集約前は次のように表せます。
そして集約後は次のように表せます。
この中の「?」をこれから計算していきます。
拠点集約後の需要の平均はこうなる
物流センター1の集約前の需要平均は、次のように計算されます。
(x11+x12+x13+ … +x130) / 30 = μ1
同様に物流センター2の集約前の需要平均は、次のように計算されます。
(x21+x22+x23+ … +x230) / 30 = μ2
よって物流センターNの集約前の需要平均は、次のように計算されます。
(xN1+xN2+xN3+ … +xN30) / 30 = μN
一方、集約後の需要平均は次のように計算できます。
{(x11+x21+x31+ … +xN1) + (x12+x22+x32+ … +xN2) + … + (x130+x230+x330+ … +xN30)} / 30
= {(x11+x12+x13+ … +x130) + (x21+x22+x23+ … +x230) + … + (xN1+xN2+xN3+ … +xN30)} / 30
= (x11+x12+x13+ … +x130) / 30 + (x21+x22+x23+ … +x230) / 30 + … + (xN1+xN2+xN3+ … +xN30) / 30
= μ1+μ2+…+μN
よって、拠点集約しても需要の平均は変わりません。
拠点集約後の需要の分散はこうなる
物流センター1の分散が、
V(x11,x12,x13, … ,x130) = V(X1) =σ12
物流センター2の分散が、
V(x21,x22,x23, … ,x230) = V(X2) =σ22
・・・
物流センターNの分散が、
V(xN1,xN2,xN3, … ,xN30) = V(XN) =σN2
なので、分散の加法性より、N個の物流センターを全部併せた分散は、
V(X1 + X2 + … + VN) = σ12+ σ22 + … + σN2
になります。
つまり拠点集約すると、集約前のそれぞれの拠点の需要分散の和になります。
【分散の加法性とは?】足し算だけでなく平均値にも応用する方法を解説
拠点集約後の安全在庫はこうなる
分散の平方根が標準偏差ですので、集約後の標準偏差は、√(σ12+ σ22 + … + σN2)になります。
よって、集約後は次のようになります。
集約前後の平均、分散、安全在庫をまとめると、このようになります。
言葉で言い表すとかえって複雑になるので言いませんが、安全在庫は集約前後でこのように変わります。
安全在庫の削減率は集約前の需要分散次第で一概には言えない!
以上の結果を使って、4つの物流センターを集約した場合の安全在庫の削減率を計算してみます。
ケース1は4つのセンターで分散が等しい場合、ケース2はそこそこ違う場合、ケース3は大きく異なる場合にしてみました。
ここから分かることは2つあります。
一つ目は、集約前の各センターでの需要の分散が等しい場合に最も在庫削減率が大きくなり、分散の差が大きいほど、集約後の在庫削減率は小さくなることです。
二つ目は、集約前の各センターでの需要の分散が等しい場合、安全在庫の削減率はもともとのセンター数の平方根になることです。
4つのセンターを集約すると1/√4=1/2倍、2つのセンターでは1/√2倍になります。
以上のように、物流センター集約により需要の「平均」は変わりません。
センターを集約したところで、消費者の購買数は変わらないので当たり前です。
しかし、「分散」は小さくなります。
その結果、安全在庫も減ることになります。
しかしどれだけ減るかは、集約前の各拠点での需要分散の大きさによって変わり一概には言えません。
この例からも、「平均」だけで判断するのは片手落ちで「分散」が重要ということが分かりますが、分散の加法性の定理は本当なのでしょうか?
管理人がモンテカルロ法で実験してみました。
分散の加法性で安全在庫が削減されることをモンテカルロシミュレーション
あと注意しなければならないのは、分散の加法性を拠点集約に応用する論理は、あくまでも物流会社やコンサルティング会社用ということです。
彼らは拠点集約の効果を大きく見せて仕事をもらうために、この論理を持ち出します。
しかし、荷主の立場ではもう一つ考慮する点があります。
それは共分散です。
荷主の立場の方は、こちらもご覧下さい。
拠点集約したのに在庫が減らない原因は共分散。その対策は平準化
また、在庫は安全在庫だけではありません。
需要予測在庫もあります。
安全在庫が削減されても、需要予測在庫がそれ以上に増えてしまうことはよく起こりえます。
何に注意すべきかを、こちらで解説しています。
拠点集約で在庫削減するために一番重要なのは調達リードタイムである理由