拠点集約で在庫削減できるのか?|統計で解くとこうなります。

2021年6月12日

「複数の物流拠点を1つに集約して、在庫削減と物流コスト削減を同時達成しましょう!」

物流会社や物流コンサルタントがよく使う営業トークです。

しかし、拠点集約によって本当に在庫は削減できるのでしょうか?

また、どのくらい削減できるのでしょうか?

「それはケースバイケースです。データをいただければ分析します!」

でもデータを出したのに、何日待っても何%削減できるという明確な回答はありません。

営業マンも困っているのです。

それもそのはず、これは相当に難しい問題なのですから。

今回は統計理論を使ってこの問題を解いていきます。

 

大事な仮定

この問題を解くためには、まず大事な仮定があります。

それは、拠点集約前から適正在庫管理がされているという仮定です。

 

【参考】

適正在庫の計算方法をわかり易く解説

 

なぜこの仮定が必要かというと、データに基づかないで勘と経験で発注量を決めているやり方だと、拠点集約してもその人の勘に頼るしかなく、そんなの計算しようがありませんということになるからです。

ですから、

「現状、各倉庫で適正在庫管理がされていると仮定して、拠点集約後もそれを継続する場合の安全在庫削減は何%になります」

という回答しかできないのです。

もしくは、現状、適正在庫管理がされていなければ、適正在庫管理をした場合に何%安全在庫が削減されるかを、各倉庫についてまずシミュレーションします。

その上で、集約後の安全在庫削減率を加えることになります。

いずれにしても、現状適正在庫管理されている仮定の下からしか、集約後の安全在庫削減率は求められませんので、ここを出発点とします。

 

中心極限定理を利用する

【参考】

適正在庫の計算方法をわかり易く解説

 

の中で安全在庫は次のように計算できることを解説しました。

 

安全在庫=√(N+M)*標準偏差*安全係数

N:仕入れリードタイム(日)

M:仕入れ発注間隔(日)

 

よって、集約後の在庫がどのくらい削減されるかを計算するには、この式の標準偏差がどう変わるかを調べれば良さそうですね。

つまり、ある商品を2つの倉庫に分けて保管した場合の、それぞれの倉庫からの出荷数量の標準偏差の合計と、拠点集約した場合の出荷数量の標準偏差とを比べるのです。

例えば、

 

倉庫Aから出荷される商品Xの1か月間の日々の出荷量の標準偏差が10

倉庫Bから出荷される商品Xの1か月間の日々の出荷量の標準偏差が20

集約倉庫から出荷される商品Xの1か月間の日々の出荷量の標準偏差が25

 

だった場合、集約後の安全在庫削減率は25÷(10+20)=83%となります。

 

もう少し詳しく見ていきましょう。

 

安全在庫の計算では、商品ごとに日々の出荷量の標準偏差を計算します。

それはもっと分解すると、出荷先ごとの出荷量を毎日合計して、その標準偏差を求めていることになります。

例えば、倉庫Aがカバーする出荷先が100店舗あって、30日間の売上の標準偏差を計算する場合、下図において縦に足した日々の出荷数の合計値30個の標準偏差を計算しているのです。

これは言い換えると、その倉庫がカバーするエリアの一日当たりの総需要量(母集団)を、標本の大きさ100個の標本で30回測定することにより推定しているとも言えます。

この時、100を標本の大きさ、30を標本数と言います。

ここで、統計理論における非常に重要な定理である中心極限定理を使います。

中心極限定理については、下記の記事でわかりやすく説明していますので読んでみて下さい。

【参考】

【安全在庫】需要は正規分布に従うのか?

 

簡単に言うと、こういうことです。

母集団がいかなる分布であっても、標本の大きさnが十分に大きければ、標本平均の確率分布は平均値μ、分散σ2/nの正規分布で近似される。

 

具体的にイメージできるように先ほどの例に当てはめると、次のようになります。

標本の大きさが100である30個の標本で母集団(=一日当たりの総需要量)を推定しています。

この時、30標本の平均値は母集団の平均値に、30標本の分散は母集団の分散/100にほぼ等しくなるということです。

 

ここで分散/100となるのは、今回の例だと標本の大きさが100だからです。

標準偏差は分散の平方根ですね。

100の平方根は10ですので、30個の標本データの標準偏差は母集団(=一日当たりの総需要量)の標準偏差/10にほぼ等しくなります。

 

この時、もし標本の大きさが10,000だったらどうなるでしょう?

30個の標本データの標準偏差は母集団(=一日当たりの総需要量)の標準偏差/100にほぼ等しいということになりますね。

つまり、標本の大きさ(=店舗数)が大きくなればなるほど一日当たりの総需要量の推定値の標準偏差は小さくなり、それも標本の大きさの平方根に反比例して小さくなるのです。

 

拠点集約に応用すると

さて、ここで2つの倉庫で日本全国をカバーしている食品メーカーを想定しましょう。

それぞれの倉庫からはそれぞれn1、n2か所の出荷先があります。

また、それぞれの倉庫では適正在庫管理をしており、ある商品についての30日間の出荷量の標準偏差はそれぞれσ1、σ2です。

この標準偏差に基づいて安全在庫を設定しているということです。

 

すると中心極限定理より、

σ1=エリア1の母集団の標準偏差/√n1

σ2=エリア2の母集団の標準偏差/√n2

 

よって、

エリア1の母集団の標準偏差=σ1*√n1

エリア2の母集団の標準偏差=σ2*√n2

 

標準偏差の2乗が分散になるので、

エリア1の母集団の分散=σ12*n1

エリア2の母集団の分散=σ22*n2

 

分散の加法性により、日本全国の母集団の分散は

全国の母集団の分散=エリア1の母集団の分散+エリア2の母集団の分散=σ12*n1+σ22*n2

 

【参考】

分散の加法性を平均値に適用する

 

その平方根を取って、

全国の母集団の標準偏差=√(σ12*n1+σ22*n2)

 

倉庫を集約すると出荷先数はn1+n2になるので、30日間の出荷量の標準偏差σTは

σT=√(σ12*n1+σ22*n2)/√(n1+n2)

となります。

 

従って集約前の安全在庫は

√(N+M)*安全係数*(σ1+σ2)

集約後の安全在庫は

√(N+M)*安全係数*√(σ12*n1+σ22*n2)/√(n1+n2)

となりますので、安全在庫削減率は

√(σ12*n1+σ22*n2)/√(n1+n2)/(σ1+σ2)

となります。

 

例えば簡単なケースとして、2つの倉庫ともに需要の標準偏差が100で、カバーする店舗数も200で等しい場合には、

集約後の安全在庫削減率=√(1002*200+1002*200)/√(200+200)/(100+100)=0.5

と計算できますので、安全在庫は半減することになります。

 

また倉庫1の需要の標準偏差が100でカバーする店舗数は500、倉庫2の需要の標準偏差が50でカバーする店舗数は100の場合は、

集約後の安全在庫削減率=√(1002*500+502*100)/√(500+100)/(100+50)=0.62

と計算できますので、安全在庫は38%削減され62%になります。

 

まとめ

このように安全在庫の削減率を計算するには多くの要素が絡んできて複雑です。

しかも、これをすべての商品アイテムについて計算して積み上げなくてはなりませんので、相当の労力を要します。

またこの計算で取り扱ったのは安全在庫だけで、サイクル在庫については取り扱っていません。

ですから、例えこの計算で安全在庫が半減されると見込まれたとしても、サイクル在庫は増加する可能性が高く、せいぜい同等がいいところですので、トータルの在庫削減率量はかなり限られてきます。

しかもこれらはすべて集約前から適正在庫管理ができていると仮定しています。

そうでない場合は更に複雑になります。

拠点集約による在庫削減効果を事前に推定するのがいかに大変なことなのか、想像できると思います。

 

もし物流会社の調子のいい営業マンが在庫削減を前提とした拠点集約を提案してきた時には、是非聞いてみて下さい。

「その在庫削減量はどうやって計算したのですか?」

と。